音響に関するいくつかの考えたこと

 こちとら、仕事として音響を扱っているが、別に音響学の専門家というわけではない。だから理論的に検証する手段をあまり持たないのだが現場で感じたこと、疑問に思ったことを形にしてまた、諸兄の意見を伺ってみたいものである。

 私は理論というのは極限までの抽象化と、モデル化によってなされるように思われる。ここでも取り上げている話題に関し某所で発言したおり、音響学の権威のオルソン博士が「完全なる点音源というものがあれば・・」っと語られたと教えられました。しかしながら、私はこの点音源という抽象的存在があるいは音響学全体をある種の間違った方向に進めている様にすら思えます。

 すべからく現実世界の現象には理論とあまり大きな違いなく現実のコントロールが出来るものと、そうではないものとがあります。例えば比較的低い周波数までの交流理論などは相当に理論通りの現象が現実にも発生しますし、製品等にも反映されます。それに対し、音響トランスデューサーの世界はひたすら職人芸のすえ、でき上がった物の、理論は後追いをすることになります。経済学や心理学などはもう言うまでもありませんね。

 現実世界を我々が理論化するためには、パラメータが理解されていること。そしてそのパラメータを正しく測定できる測定器並びに測定技術が確立されていること、が必要です。逆に言うとパラメータが不明で(ということは測定器も考案されない)、もしくは分かっていても測定技術が確立していない場合は、現段階の人類はそのことについて論ずることは出来ないわけです。

 さて、音響です。音響理論はすでに大変に優れたものが多々ありますし、何を今さらという感が無きにしもあらずなのですが、大概の音響エンジニアあるいはアーティストが理論通りにいったためしのない経験の方を多くしているのが現状です。なぜか?ここに音響測定の方法自体の持っている本質的な欠点のようなものがあるのではないかと思った次第です。

 まず、音そのものの特徴を今一度考えてみたいと思います。例えば光の場合は、その波長はナノメートル単位であり、あらゆる測定器、感覚器官に対し十分に小さいものであると認められます。翻って音響を考えますと、その波長に比べ、なんと感覚器官や測定器は小さいのでしょうか。話を簡単にする上で音の秒速を340mとし、人間の周波数検知上限(と言われている)である20KHzで割ると、その波長は17mm。これではとても音の全体像などというものではなく、微分値を計測しているだけということになりかねません。しかも、1インチカプセルでは下手をすると、同一振動板上で逆相成分をミックスすることにすらなりかねないわけです。まして最低音では波長は17mにも及び、はて?われわれは音の何を計測しているのだ?という事態が生じます。

 近在した部分で二つの波を立てられるようにした機材で、水面上に波を発生させると面白い現象が観察できます。つまり、振動源に近いところでは個々の波が交差してももちろん波形合成は行われるが、波としては独立して進んでいる・・という点です。が、距離が進むにつれて各波の独立性は失われ、ついには元から一つの波であったように完全に合成されます。したがって、一点におかれたマイクロホンという測定器は、三次元の動きをしている音響振動を一次元の振幅としアイソレートして捉え、かつ我々はその判断をオシロなどのイメージで二次元的に捉えているということです。これは正しい音響の認識とは言いかねるような気がずっとしていました。

 ここで我々が改めて注意しなければ行けないのは、音源は十分に大きいということ、現場では多重音源を扱っているということ、なのです。おまけに言うと、人間自体が多重測定器であるということです。確かに耳という感覚器官のみをとらえると、よりシンプルに二点のみの感覚器官ですが、実際に声を出したとき、体(特に胸部)が共鳴しそれも同時に感じていること、より明示的には低温部であるが、体全体が音に対して反応していること、特に胸部と頭部はレゾネータとしての性質をも有すること・・これは見逃すことの出来ない事実です。故に音源もまた立体的に大きく、リスナーである人間も立体的に聞いている・・これは言ってみれば立体から立体へという相当に複雑なエネルギー系の問題であるということです。しかも測定器自体がそれを「ミクロにしか」捉えられないというジレンマの中で音響理論は進んできました。

 さて、こういった音響自体の捉え方に関する素朴な疑問からこのページはスタートします。我々が楽器の音を捕らえるとき、あるいは音声を捉えるとき、さらにはそれが拡声されるとき、一体何が起こっているのか、もう一度、何度でも原点に立ち返りながら考えていきたいと思います。もちろんとっくに音響理論として証明されているとか、理論的におかしいとか、とっくに発表済みであるとか言うことも多々あろうかとは思いますが、やはり自分としては自分の体感を自分なりの理屈として理解することなしに、確実な仕事は出来なかったわけで、自分自身で振り返り、また初学の方々の参考にと考えをまとめてみることにしました。スタンスは常に肉体感覚(特に音響では耳に実際感じたことが重要でしょう)との一致無しにいかなる理論も信用しないということです。

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オペレートのスタンス
ライブに於けるリスナー
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