音が届くということ

 昨年(1997)、小林陽一とグッドフェローズの野外SRを担当した。周辺を林に囲まれたさほど広く無い会場であったし、友人である主催者の「金がない!」を受けて小予算でシステムを組んだ関係でSX-200を2対向、足場に組んで下向きにセットできるようにして実施した。結果的には、ミュージシャン、リスナー共に好印象を持っていただいたわけだが、オペレート席直前(スピーカーから十数メートル)で音が一気に変わるという経験をした。

 通常、野外でのオペレートはひたすら最大ピーク音圧を観客席の目的とする場所で如何に確保するかが大きなテーマとなるわけであるが、音圧は十分に確保されているにも関わらず、オペレート席直前で見事に音からリアリティを失っていたのである。これが音が届くということに対する定説への疑問の出発点となった。

 音圧は十分確保できている。指向角も比較的狭い方で同一エネルギーということからすると決して音が届かないなどということは無いはずである。が、実際にはSRエンジニアの間ではこのSX-200は約10m程度が実用的な使用距離とみられている。(良い悪いではないので注意されたい)

 明確な理論化があってのことなのか、経験から選択するのか。一般に長距離放射を要するSRの局面では大口径ダイアフラムのドライバーを用いたスピーカーが選定されている。これはいかなることなのか、考えてみたい。

 アルティックランシング社の技術資料によると、指向係数というパラメータが大きく遠達性に影響するとある。まぁQですな・・

 さて、この指向係数が最高度のものを(つまり音響的には有り得ないが理論的に考察するに最適と思われる)使っていくらか考える。

 おそらく、指向係数がもっとも狭いものとして、まったく拡がらないエネルギーの放射というと真っ先に思い浮かべるのがレーザービームであろう。単波長励起によって作り出されたこの純粋な光は(理論的には)拡散することなく、空気中乃至真空中の伝達損失よるエネルギー低下を除くとほぼ無限遠点まで到達する。

 が、実際には空気中の微粒子により反射拡散を起こし、特に霧の中等ではある程度の距離で発散消失することが観察できる。

 これは、ビームにより近づけた高指向係数のスピーカーでも言える現象であり、媒質としての大気の状態によりエネルギーの拡散消失現象を起こすことが考えられる。これにより、明確な方向性を有していた音像が一気にぼけ、焦点を失った間接音含みで音量だけは感じるという状態になるその境目が、音が届かなくなると感じる点なのではないかと推察される。

 もちろん、閉空間に於ける間接音交じりの場合は直間接臨界距離と言う問題が大きく取り上げられるのであるが、音飛びにはやはりこのビーム性が利いてくるように感じられる。

 さて、ビームを形成する要件としてダイアフラム径が大きく利いてくるのは、面音源としての性質が大きくなることによる。この点を取り上げても点音源というのはあまりに抽象的な理論前提であるように思われる。面音源としてのダイアフラムは定指向性ホーンの指向係数と相まってより拡散しにくくなり、遠達性が実現できるようである。(この面音源と点音源の虚実については別途検討する。)

 そこで、解放空間に於ける定常状態(例えば温度25度、湿度60%埃の無い清浄状態)で、どの程度の距離でビームぼけが生じるかの実験を代表的スピーカーで行っておくと、システムプランに大きく寄与するように思われるがいかがであろうか。出来ればこれもカタログの諸元の中に組み込んでいただきたい項目である。


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