逆自乗法則への疑義

 はてさて、大上段に構えた命題を持ってきてしまった・・

 実に単純なことながら、現場での適用、実際物への適用という面で見逃されてきたかもしれない点である。

 一般に音、あるいは光のような3次元球体状の放射をするものエネルギーは、距離の逆自乗法則というものが成立する。この法則はまったくの正しさを持ち、これ自体疑いを差し挟む余地はない・・が、この法則を現実のエネルギー放射体に適用する場合はいくつかの問題を有することとなる。

 この法則の前提条件の一つはエネルギー放射点が理論的な大きさを持たない理論的理想点であるということである。これはロウソクの光のようなその放射特性が最初から360度に近いものの場合はあまり問題としては露呈しない。が、指向性を持ち、且つ相当の大きさを持つ放射体の場合だいぶ大きな問題となる。

 太陽は殆ど無限遠点にあるが、頭上にあるそれを観測する限り点光源のようである。事実、太陽の中心に理想的な点光源があると仮定すると、いとも簡単にこの問題は成立し、例えば太陽-地球間の半分の距離での単位面積当たり照度と地球と同一距離上における単位面積当たり照度を比べると、逆自乗法則がきれいに成立するのが確認できるであろう。

 だが、地球上において1m四方の窓を作り太陽に正対させ、そこを0mと規定した後、太陽から更に1m離れたところで基準照度を測る。この場合、窓枠のところが光源であると見なすわけである。この状態で更に1m離れて、つまり光源に対して最初の測定位置より2倍離れたところで測定した場合、照度は1/4に減少しているか?

 これを反則というなかれ。実際に音響のセッティングをしているとこのような状態にはしばしば出くわすのである。つまり、リスナーまでの距離に比べ音源のサイズが巨大すぎるのであり、音源サイズが巨大であると畢竟面音源に近くなるのである。と言うことはみかけ上逆自乗法則は成立しなくなるのである。

 ここで、我々は理論的モデル化に関し注意しなければいけないと言うことに気づく。あくまで理想的点音源ということがこの法則の出発点であり、それは理想的且つ理論的点であるということだ。

 すでにスピーカー表面の段階ではるか後方に仮想音響中心が決定できるほど、現実のスピーカーユニットあるいはスピーカークラスターはでかいのである。よって、スピーカー表面を音波が出発した瞬間にすでに相当に後方から放射された音波のごとくの波面を有していると言える。

 よく面音源、点音源というが、無限遠点の点音源の波面は観測者の系では平面波と同様になっているということに注意したい。まるで電源のオンオフをしている限り、直流というものは存在しないという論法に似て楽しい話ではないか。

 解放空間ですらおそらく成立しないであろう故、閉鎖空間では間接音によって更に成立しないのはあたりまえであり、このことはもっと設備設計マニュアルに記載されるべきであるように思われる。ここには、リスナーのリスニングポイントにより有効に音響エネルギーを放射するためのヒントが沢山隠されているように思うがいかがであろうか・・


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