マイクロホンについて

 通常、マイクロホンはその構造的特徴から論ぜられることが多いのだが、ここでそれを再掲しても、先学にはとても及ばないのでので、やらないことにする。

 マイクロホンを現場で選択する際に(値段のことはこの際除外しよう、それぞれの事情によるであろうから)、いくつかの選択のためのファクターがある。

 一つはまぁダイナミックかコンデンサーか・・これは語り尽くされている。

 次に考えるのは、経験的に得た音質に関する知識による選択。これはだいぶ定説のようなものが出来つつあり、これが定番として現在では使用されているようだ。よくある使用法ではエレクトリックギターの類には57とか、タムには421とか、O.HやH.Hには451とか・・

 で、それをまた収集してデータベース化しようという計画もまたあるのだが、今一つのアプローチ方法を提案というかエンジニアのアプローチの理由付けとでも言うか、挑戦してみたいと思う。

 音源の性質を再度検討するとその絶対音圧、アタックの出方、周波数スペクトラムの分布、こうしたものがマイク選定の際の大きなファクターではないかと思われる。これを如何に分析し、使い分けるかが各エンジニアの手腕の発揮しどころかとは思う。(まぁ、分析なぞ別にせんでも、良い音がすると感じた物を選ぶだけで十分ではあるが・・)

 さて、楽器には本ホームページで幾度か述べたとおり有意な大きさがある。当然その大きさに応じた波面の大きさがあり、その波面の曲率というものがある。その曲率半径が大きいものつまり音源の主たる発音体の大きさが大きいものには、マイクカプセル径の大きいものをあて、波面の曲率の小さいものには小さいカプセル径のものを当てるべきであるというのが、私の言うアプローチである。もし、波面の小さい楽器に対して大きなカプセルを用いる場合には波面が大きくなる距離、あるいは波形合成が完了し波面が結果として大きくなった距離まで離して収音すべきであるように思われる。

 これは、音源からの波面の曲率が小さなものに対し、大きなカプセルを用いた場合、カプセル表面で波面曲率が小さいことによる逆相成分の混入が考えられ、音源の情報を十分に捉えられるとは言いかねる現象が生じるためと理解している。

 また、波面が大きいものは総エネルギー量も多いものが多い。これは同一電圧の場合、電流量が多いことに通じまた、それは音のエネルギー感にも通じる。したがって、確かに波面が大きいものに対し小さなカプセルのマイクでも十分に特性は取れるのだが、エネルギー感に欠ける収音となりやすい。

 これはもちろん偏見に近いものである。事実いかなる検証もしていない。しかし実感としてどうしても退けることの出来ない感覚となって染みついており、このアプローチを頑固にとり続けることとなる。

 私の場合、楽器の発音機構を考えその音が放射される様子を想像し、その波面の大きさ等を想定してマイク選定に入るのが最近の定番アプローチとなっている。もちろんいろんな実験は欠かさぬようにはしているのだが・・

 さて、マイク選定をより複雑にするものの一つに近在する音源の問題がある。特にドラムキットのタムタムまわりは深刻で、常にかぶりとの戦い、あるいはその上手な利用法に苦心することとなる。

 FBSR会の技術研修会で講師の岡田氏から伺ったのだが、タムタムに421が多用される理由の一つに、指向特性外の音質に癖がないということを上げておられた。つまり、指向特性を外れたところで如何に音圧制御が出来ていても音質に極端な癖を生ずるようでは隣接する音源のかぶりが聴くに耐えないものとなると言うことだ。その点421は軸外の音質が実に癖が少なく、これがタムタムに多用される理由であるとのこと。良いマイクであっても軸外では若干の癖を生じるマイクとしては57を例に上げられていたが、実際に実験をするとその通りであった。

 かようにマイクというのは、単独で使用しては分からない癖というものが多々あり、実際に現場という局面でさまざまに使ってみないとその全体像が掴みにくいものではある。音質は確かに自分のボイスで大まかなことは確かめられる。例えばチェンバロなどでどう反応するか、腰の入った音が取れるかなどは実際に使ってみないと分かりがたい。また、なにより多くの音源がある中で一つ浮きだたせたい、というような用途では単純に特性のみ、あるいは単独で良い音がどうかでは分かりがたいものである。

 特に国産マイクの場合、単独で使用した場合は大変に美しいHiFiなものが多い。が、合奏の中では埋もれてしまい音が前に出てこない。これが多くのエンジニアをしてアメリカ・ヨーロッパ系のマイクを選定させる大きな原因となっている。つまりここでもSRの現場に於けるコントロール性の問題が出てくる。広大なSR空間を越えてなお音が鈍ることなくリスナーに届くためには、表面的なHiFiだけでは役不足なのであろう。


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