最終回 やんちゃ娘

子 年勤めた会社を真紀は出産を期にやめた。子供を預けて勤め続ける方法も考えたが、和也の協力なしには無理で、今の和也の状況を考えると、とても望めることではないとよくわかっていた。

 一時期は育児に専念しようと決めた。働く意志さえもっていれば、チャンスはまたあるだろうと思った。その間は充電期間と考えることにして、絵本を作って暮らそうと考えた。
 子供は半年すると寝返りし、はいだす。表情も豊かになり、機嫌がいいと声をあげて笑う。毎日の変化が面白くて、手はかかるが、喜びも大きいと真紀は新しい体験を楽しんでいた。

 喜久江と名づけた女の子は和也と真紀に見守られすくすくと育っていった。育児をしてみて、真紀が一番困ったのは喜久江が物をいわないことだった。当たり前といえばそうなのだが、泣くか黙っているか眠るかくらいしか意志表示が赤ちゃんにはない。
 何が意に沿わないのか、さめざめと泣く。おなかが痛いとか、眠り心地が悪いのか何か言ってよ、と生まれたての赤ちゃんに思わずつめよったりしたものだ。それがだんだんに真紀の方が母親らしくなってきて、赤ちゃんの要求がわかってくると、むやみに泣かせることはなくなる。

 思ったより人見知りもしなくなり、実家の母を覚え、嬉しそうに笑う。おばあさんと呼ばせないと言ったのはすっかり忘れて喜久江相手に終日ニコニコしている母だった。

 風邪をひいて熱を出したり、大人の食べ物をねだっておなかをこわしたりしながら喜久江は順調に大きくなった。

 3歳のお祝いの前日に、お宮参りに着せようと用意した白い襟のついた真紅のビロードのワンピースを一人で取り出し、着てみると騒ぐ。明日ね、と言っても今着るのだと言い張り、ついに負けて、着せてやると、大はしゃぎして家中をはねまわった。

 いい加減で着替えさせようとした矢先、片付け忘れたテーブルの上の醤油差しに激突し、白い襟に見事な染みを作った。
 夕方からしみぬきをしたが、大きく滲んだ染みはとれない。洗剤も漂白剤もようをなさず、結局白い襟に茶色の染みがついたままでお宮参りをすませた。両親だけがバリッとした服装をして記念撮影におさまったというわけだ。
 晴れ着が何枚もあるわけがなく、近くのレストランで食事をする時には早々に遊び着に着替えさせた。和也の両親は笑いながら元気が何よりだといい、真紀の両親は、着せるもので価値が決まるものではないと言っていた。

 両家の親たちが談笑して、それぞれ戻っていった。喜久江はお祝いにもらった人形を抱いて眠ってしまい、普段の日よりずっと早くに真紀も育児から開放された。和也は
「ひさしぶりに飲もうよ」といい、にしき郷をあけた。
「昼間、すっかり飲んで、またなの」といいながら真紀もお相伴する。
「35ミリでもデジカメでも喜久江をとってやったんだから、デジカメの方、修正しておいてやれよ、晴れ姿だ」
と白い襟の染みについて笑いながら言う。
「とんでもない、証拠写真よ、これだけお転婆でした、って末永く残しておくわ」と昨日からの騒ぎの元でもとるように真紀が言う。
「手厳しいな」と和也
「喜久江にあなたは甘すぎるわ」といいかえしながら真紀も笑う。
そうかもしれんなと同意しながら和也は言う。
「日本酒の甘口、辛口っていうのも、子供に対する親の甘さ厳しさに似ているな、その人の感じ方なんだね」
「そうかもしれないわね、シンガポールで一人で飲んだ時、とっても辛いと思ったわ、それが、会社やめるのを決めた日の味は甘く切なかったもの」
「いいよな、いい酒があって、真紀がいて、娘がいる今・・・」
久しぶりにのんびりと二人で過ごす夜だった。

家族
 【子供を守っているのは?】
   階段から落ちた
   床をすべった
   椅子からころげた
    大人だったら大怪我だろうに子供は平気

   神様がおられるなら
   子供を守る役目をはたされるのだろう
   人は大人に近づくほど
   神様から遠ざかっていくのかもしれない

    だから大人は“にしき郷”を飲んで子供にかえる
    神様のもとにかえりたくて

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最終回はいかがでしたでしょうか。
様々な障害を乗り越えた真紀と和也の幸せなひとときに乾杯して私も「にしき郷」飲んじゃお〜っと!!
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