特派員レポート

第2回 水の話
 
の友人でもあり、無類の酒好きでもある角館在住の 泥酔1号@嫁求む さんが長年蓄えた知識をレポートしてくれることになりました。米の話 水の話 蔵元見学記など・・・・。色々な話題が盛りだくさんで、お酒の話から遠からず近からず・・読み終えた時には、「私も知識人」などという錯覚に落ちいってしまいそうです。

今回は、米の話に続いて第二弾水の話です。どうぞごゆっくり お楽しみ下さい!!

 ちょっとお酒の話                泥酔1号@嫁求む  記

第 2回    水の話

  蔵に見学に行くと、対応してくれた杜氏さんや、蔵元さんがまるでお経のように必ず言うことがあります。どの蔵に行っても(年中酒造りをしているような大会社でも、明日にも廃業しそうな小さな蔵に行ってもです!)、似たようなことを言われます。

「私どもの蔵は、よい水に恵まれまして・・・・・・(以下10分間のお話は省略)」
または、このように切り出してくるところもあります。
「私どもは、よい水を捜し求めた末、この地で良水に出会い・・・・・・・・(以下、30分間のこの地に移転するまでの苦労話は大省略)」

  とても良いお酒  − タンク1本丸ごと買ってしまいたい −  を醸し出す蔵でも、二度とご遠慮申し上げたいような蔵でも、このようなことを言われます。いったい、「酒造りに良い水」(以下、「良い仕込水」)とは何なのでしょうか?そりゃ、PCBや放射性物質、今話題のダイオキシンが混ざっているのならば誰にでも「悪い水」と分かりますが、そんなものが混じっていては酒造りに使う以前の問題ですね。あっ、これも当たり前か。

「良い仕込水」を考える前に、「日本人が良いと思う水」というものはどんなものでしょうか。

           @ 無色透明
           A 無味無臭
           B 適度な冷たさ(夏は15度、冬は10度以下)
           C 微量に炭酸ガスを含んでいる
           D 軟水
           E 雑菌等の汚染物質を含まない

この6点が考えられると思います。これを見ると「日本人が良いと思う水」は、「日本人がおいしいと思う水」と読み替えてもよさそうです。この条件を満たす水には、

           @ 地下水
           A 沢水
           B 河川の源流水

あたりが該当していると思います。さて、最近、コンビニなどでペットボトル詰めされた各種「おフランス水」が販売されていますが、あれはどうでしょう。日本における区分では、ほとんどのおフランス水は「超硬水」(ミネラル分が非常に多い水)に分類されるものですので、一口目はおいしく感じますが、そのうちに舌にざらざらした感じが残るようになり、不味く感じるようになります。

 では、「良い仕込水」とは、飲んで感じる「おいしい水」とイコールなのでしょうか?

           @ 無色透明
           A 無味無臭
           B 大抵の場合井戸水なので、冷たいこと(出来れば10度以下)
           C 鉄分が少ない
           D 極力、重金属類や有機物を含まない

大体、この4点に尽きると思います。飲んで感じる「おいしい水」とイコールに近いところにはありそうな感じです。

             いきなりコラム
      酒造りに使う水も飲んでおいしい水だとは思いますが、これでお茶を入れ
      たらどうでしょう?実は、最高級の玉露だろうが、ほうじ茶だろうが、非常に
      不味いお茶になってしまいます。なぜでしょう。酒造りで使う水には鉄分が
      ほとんどはいっていません。お茶の旨味成分の素(何だっけ?グルタミン酸
      だったかな?)は、鉄分と結び付くと旨味として人が感じるようになっている
      のだそうです。鉄分と結び付かないと、旨味成分の素を舌は渋味として感じ
      るため、不味く感じるそうです。
      また、酒造りに使う水の検査(仕込水検査といいます)には雑菌(大腸菌群)を
      調べる項目が無いので、それと知らずに生水を飲んでしまうと、下痢をしたり
      することもあるそうです(滅多に無いけどね)。

  無色透明・無味無臭は当たり前として、酒造りに使う「良い水」としてもっとも必要な条件は、鉄分を含まないことと、重金属類(亜鉛、マンガン、クロムなど)・有機物をなるべく含まないこと(吟醸仕込に使うものには絶対に含まれないこと)に尽きると思います。

  仕込水に鉄分が含まれていると、麹菌が生産する物質(デフェリフェリクリシン)と反応して、赤褐色の色素(フェリクリシン)を発生させるため、酒の着色の原因になるとともに、香りや味の成分とも反応して変質させる効果もあるため、造り酒屋では特に鉄分に注意を払います。
また、重金属類は鉄分ほどではありませんが、同様の効果(着色及び酵母の増殖阻害)を持っているため、有機物も味・香りの成分を変質させる効果があるため、極力含まれないものが望ましいとされています。

ところで、硬水と軟水の違いはどうなのでしょうか?
「硬水」とは、各種ミネラル分(カリウム、ナトリウム、リン酸、マグネシウム、カルシウム、クロール=塩素イオン)を多く含む水をいいます。対して「軟水」とはこれらをあまり含まないものと考えればいいでしょう。人が飲むの には軟水が適していますが、酒造りには硬水を使う蔵も数多くあります。同じ仕込みで水だけを変えたとすると、

         硬    水               軟    水

        醗酵が旺盛になる            穏やかな醗酵 

        糖分の食い切りが良い          糖分が残る 

        酸度があがる              それほど酸度が上がらない

        最高22度程度のアルコールを生成    18〜19度止り

             ↓                    ↓

       コクのあるしっかりした酒質        きめ細やかな柔らかい酒質

上記のような傾向が見られるといいます。
おおむね、硬水仕込みをしているところでは「純米酒」「本醸造酒」が美味しくて「辛口」、軟水仕込のところでは吟醸酒が美味しくて「やや甘口」と思っていればいいでしょう。もっとも、味の傾向は、その蔵の考え方でずいぶん変わりますから、一概には言えないところです(硬水仕込みによる甘口の大吟醸酒、軟水仕込で超辛口の純米酒なんてのを出している蔵もありますからね)。

 さて、「良い仕込水」の歴史は、「桜正宗」の山邑太左衛門による「灘の宮水」(硬水)の発見(1840年)から始まるとされています。宮水の発見によって、腐造(仕込んだお酒や、もろみが腐ってしまう)が減り、コクのあるしっかりした酒質の辛口酒が安定して作られるようになりました。このことから宮水は霊水と称され、後に「水屋」
  〜  読んで字の通り、宮水を売り歩く商売。広く、関東から九州にまで売られた。昭和30年代まで残っていたといいます 〜
まで出現しています。その後、広島県の三浦仙三郎が「軟水醸造法」を考案(明治31年)し、宮水などの硬水を使わなくても軟水で安全に良質のお酒が醸造できるようになり、その土地の気候、仕込み方にあった形で広く全国に普及し、各地の酒質向上をもたらしました。また、このおかけで各地に軟水の「良い仕込水」が出現しています。

  ******第2回目はここまでです。次回をお楽しみに******

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