スモスがゆれている。都下にあるS記念公園は百万本?コスモスが植えられているという。
公園にはコスモスの丘があってこの丘には全てコスモスが咲いている。ピンクも赤も黄色も白も特に風にゆれると壮観だ。秋の桜と漢字で書いてコスモスと読ませるがとても上手な表現だと真紀は思う。
秋になった。和也の仕事は相変わらず休みもなく続いている。結婚しても真紀は勤め続けている。
それなり多忙だが、2DKのマンションの住まいの掃除や片付けはしれているし日曜日の午後などさすがにすることがない時がある。そんな時、真紀は花を見にでかける。デジカメをもって、車でいく。
コスモスの茎は思ったより長く、160センチの身長の真紀の姿を隠してしまう花も多い。前夜の雨で足元が少しあやういがコスモスの群れの中を歩く.どうしても下をむきがちになりながら。

一人で黙って歩いているとイヤでも周囲の人の話し声が耳に入ってくる。
「パパ きれいネ、あの紅色のがいいわ」
「うーん」
「黄色い花は少ないのね、育たないのかしら」
「うーん」
「うちの庭にもコスモス植えましょうよ」
「うーん」
夫婦とおぼしき二人の男女の会話を聞きながら真紀は女のおしゃべりを心の中で笑いたくなる。ご主人の気のない返事に彼女は気がついていない。彼女がきっと行きたいといってご主人を誘い出して、コスモスを見にきたのだろう。彼女だけがウキウキしているのがよくわかる。
「でもね 今年は無理ね、もう花が咲いているんだから、来年咲くようにしましょ」
と一人決めしている。
「鉢植えがあるだろ」
初めてご主人らしい人の声がした。
真紀ははっとした。あの大槻の声だったからだ。振り返ってはいけない、そしてここから気づかれぬよう遠ざかるべきだ。真紀は心臓の鼓動が高くなるのがわかった。
真紀はあの頃のようにロングヘアではない。結婚して手入れし易いようにショートカットにした。あの頃は勇気がなくて出来なかったピアスもしている。今は大きめのものまで楽しめる。あの頃はブローチでもイヤリングでもさり気ないタイプばかり好んでいたのとは違いくっきりしたものをつけている。
あの頃と違う、あの頃とは私は変わったのだと真紀は自分に言い聞かす。
和也と一緒にくれば良かったと後悔しながら、頭の中は大槻の表情や殴られた和也の顔などがかけめぐる。
足早に転ばないようにと気をつけながら小走りに丘をおりてふりむかず駐車場に向かう。じっとりと汗をかいている.もし車のエンジンがかからなかったら・・・と思うと手がふるえる。
心配はとりこし苦労でエンジンは正常にかかり、車は何事もなかったように動きだした。遠くへ、なるべく遠くへと真紀はアクセルをふむ。ミラーをみながら後続の車の運転手を確かめるが、それらしい車は見えない。
しばらく走ると落ちついてきてあの気のない返事は冷えた夫婦関係を示していたのかと思ったりする。それとも私に気づいていたからか・・・
さっと血の気がうせるが、気づいていたら彼の方がアタフタするべきだったと思いかえす。顔をあわせていたらきっと知らん顔するはずだし・・・
だとすればこんなに焦らなくても良かったのかもしれない。
車を道の端によせて和也の携帯電話にコールする。
「真紀よ」
「どうしたの」と和也の返事が聞こえてくる。
「あのう・・・・・」
「何かあったの、今どこなの」
「私は大丈夫なのよ」
「そうか、でも変だな、何かあったの、言ってみろよ」
「あわてているの」
「それはわかるよ、困ったことがあったの」
真紀は深呼吸する。気付け薬代わりににしき郷があったらいいと思う。
「私、ちゃんとウチにかえるの」
真紀は電話口に向かって大声でいった。
【もういちど 君と】
もう一度生まれ変わって
女を選べといわれたら
ためらいなく君を選ぶ
どこに住むかと聞かれたら
一筋に故郷に帰る
君をともなって
【もういちど あなたと】
もう一度生まれ変わって
男を待てと言われたら
すっきりとあなたを待つ
もう一度生まれ変わって
どこに住むかと聞かれたら
あなたの育った土地へと旅立つ
やっと愛を見つけたから