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民舞・ホット情報

舞踊家ミッシェル誕生物語

その7 さんさ踊りと花田植え

2002年の年も明けサンノゼ太鼓のユミさんはアメリカに帰っていきました。
アテルイの舞台実習も年末で終えいよいよというかやっとというかこれから3月の発表会までミッシェルはフルで稽古に明け暮れる毎日を堪能することができることになりました。

さんさ踊り
さんさ踊りの手踊り部分は年末までに覚えきっていたので若干の修正をした後さっそく太鼓の踊りに入りました。
1月8日訓練再開。
覚えた曲目は

歩み太鼓
3拍子
4拍子
5拍子
7拍子
田植え踊りくずし
獅子踊りくずし
引きは
礼踊り

1月22日からわらび座研究生の授業でもさんさ踊りを取り組み始め、男子たちに太鼓を教えることになった私とともにミッシェルも授業に参加。
時には私がマンツーマンの稽古をしている間他の人たちの太鼓のリズムをみてくれたりしました。
ミッシェルは無条件に若い世代の彼たちと一緒に訓練をするのが楽しかったようです。
無理もありません、それまでずっと訓練といえば私と一対一。
内容的に得るものが沢山あったとはいえ全てをソロで訓練していたわけです。
踊りのもう一つの楽しみは集団で気持ちを一つに合わせて踊ること。
その楽しみをやっと謳歌できるのです。
それだけに研究生の授業で感じる集団で踊る喜びと、一方で私との個別の訓練で一人で踊るさんさ踊りの内容の違い、ギャップ、その落差の大きさにミッシェルもはじめて大きな悩みを抱え始めました。
何時もどおりのミッシェルとの訓練で私はミッシェル用に全曲目を組み込んだ構成を作ったわけですがミッシェルの中ではそのソロの踊りをどういう気持ちで踊ったらいいかわからない、と悩みはじめたのです。
研究生と一緒に踊る時は楽しい。
でも一人で踊る時どういう気持ち?と。
さんさ踊りを生み出した人たちの踊りと農業、自然との関わり。感謝の気持ちを込めて神社に奉納すること。などなど、踊りの内容について語り、時には雪の中を近くの神社に連れてゆき情景を説明したりしました。
沢山の人たちと踊る時も一人で踊る時もその状況は違うけれど踊る心は同じということを掴んで欲しかったのです。
でもミッシェルの心はなかなかスッキリしません。
私は無理強いせずにミッシェル自身でその内容を掴み、踊りたいという気持ちになるまで待つことにしました。
踊りたくなければ踊りたくなるまで踊らなくても良いのです。
問題はその解決の糸口を誰でもない、ミッシェル自身の力で見つけてほしかったからです。
その時にこそ本当の力が付くと思っていました。
けれど一旦提示したことについては絶対に後には引かない、内容を弱めるような妥協はすまいと決心しました。
さすがアメリカ人気質のミッシェル、自分の気持ちになじまないことに関しては頑として受け入れられないという強い一面を見た思いでした。
私はじっと我慢の子。
機の熟するのを待つのみです。

それから10日間以上たった頃から、徐々に、徐々に踊る気持ちになってきたのがわかります。
その間一生懸命考えに考え、イメージを構築し自分の踊りたい気持ちを準備してきたミッシェルの努力は相当なものだったと思います。
そして最後の本番まで自分で追い上げていったのです。
自分の気持ちにそったテンポを決め、若干でしたが構成もミッシェルの要求に合わせて手直しをしました。
笛を付けてもらって踊りたかったようなそぶりも見せましたが、純然と太鼓の音色だけで勝負させたいという私の目論見もあったので頑張るように促しました。
心と身体とがフィットし、 少しずつ流れがついてきたのがわかるようになってきました。
ひとまず私も安心。
そのことさえ解決すれば技術的な問題は例のごとくクリアしていたからです。

花田植え
2月8日いよいよ最後の曲目花田植えに入りました。
発表会は3月24日と決まっていましたから約1ヵ月半での取り組み。
これまた大変ユニークで技の極致の一面を持つ曲であるからそんな簡単ではない。
つまりじゃんがらより、さんさ踊りより更に大きな太鼓を腰からぶら下げその太鼓を揺らさないようにしながら両端に馬の毛がついたバチを操って様々なバチ捌きを踊り分けなければならないのです。
バチで太鼓の皮を打つ一瞬の間にそのバチを両手の間でクルクル回す作業が絶え間なく入ってくる。
下半身は田んぼに入っているので固定されているのですがその代わり上半身がバチの流れを淀ませないために絶えず曲線を描いて、つまり8の字を描かなければなりません。
上半身の柔軟性が求められるのです。
最初はやはり身体が上手く回りません。
ウンウン言いながらやるのですが身体はガチガチです。
でもイメージは持ち易かったようで最初からのっていました。
ミッシェルの大好きな田んぼの中での踊りだったし、曲を聴いた途端これまた大好きな黒澤明の「七人の侍」の中に出てくる曲と同じだったからです。
そして一ヵ月後には見事指先でバチをクルクル回すことも難なくできるようになったし打ったバチを空に放り投げテンポの中でキャッチして素早く次のバチで太鼓を叩く連続技もこなせるようになりました。
またまた大好きな曲が増えたミッシェルでした。
発表会では講師陣が総がかりで俄仕込みの笛、小太鼓、歌のバックアップを行いミッシェルの踊りを大いに盛りたてるというおまけまで付いて、とにもかくにも一年間の訓練の良い仕上げ曲になったのです。