小児科通信 平成14年3月号
春は旅立ちのシーズン。進級する人、進学する人、就職する人、東京の病院に勉強に行く人、新たな道へ旅立つ皆さんにいい事がありますように。(文責:渡部泰弘)
渡部先生、転勤って本当ですか?
残念ながら、本当です。
去年の暮れあたりから、一部では「小児科渡部は春に転勤らしい」という噂が流れていたようですが、きちんと決まるまでは言いにくい事でしたので(別に隠している訳ではありませんでしたが)おおっぴらにはしていませんでした。そういう訳で、つい最近まで「先生、もしかして転勤するの?」という声に対しては「まだはっきり決まっていないんだけど、動くかも」という程度のお話しか出来ませんでした。
ようやく正式に決まりましたが、4月から転勤します。正式には転勤というよりも、公立病院を辞めて勉強のために職場を移ります。新しい勤務先は、東京の都立梅ヶ丘病院という所です。
渡部先生、小児科辞めちゃうの?
僕ら小児科医は、医者になった後の数年間「一般臨床研修」という名目で「一般的な小児科医の仕事」が出来るようにトレーニングを受けます。この期間がいわゆる「研修医」です。一通りの研修が終わると、その後は自分で小児科の中の専門分野(例えば小児神経、未熟児、血液など)を選び、それについて勉強する期間があります。勉強とは言っても、実際には専門分野の患者さんを集中的に診ている病院などで指導医の元で仕事をしながら学んでいきます。例えば秋田大学の小児科医には、小児神経学を専門に選び鳥取大学脳神経小児科で勉強して来た僕の先輩の先生や、小児循環器(心臓病)を専門に選び東京女子医科大学循環器センターで勉強して来た僕の同期の先生(外来に時々来る豊野先生ね)がいます。他にも多くの医師が、専門施設それぞれの専門分野の勉強をして来ています。
僕は一般臨床研修が終わった後、大学で研究屋さん(患者さん相手ではなくて、培養細胞と試験管相手)をやった後に公立病院に来ましたから、実はまだ専門の勉強をするチャンスが今までありませんでした。今までは、所属している秋田大学の小児科から「まだ県内で人が足りないので、まだ異動せずに角館で仕事してて下さい」と言われていたのですが、他の施設に勉強しに行きたいので前から希望を出していたところ、ようやくこの春から「まだ人手不足だけど、勉強しに行って来てもいいよ」とOKが出たのです。
僕が専門分野として選んだのは「小児精神医学」の分野です。都立梅ヶ丘病院は小児〜思春期の精神科の専門病院で、僕はそこで子どもの精神科の勉強をして来る事にしました。「あれ、渡部先生は小児科辞めて精神科のお医者さんになっちゃうの?」と思う方もいるかも知れませんが、そうではありません。今までこの分野を専門にした小児科医は県内ではほとんどいませんでしたから、勉強して帰ってきたら小児科の立場で今後も仕事をするつもりです。ただし、一般臨床研修の間は研修のシステムがきちんと出来ていますから、研修医でもそれぞれの病院から給与をもらうことが出来ますが、僕のように専門分野の研修に行く場合は、行った先の病院で初めから専門の仕事が出来るわけではないので、必ずしも給与がもらえる立場ではありません。僕も今のところはバイト(コンビニとかじゃなく、お医者さんのバイトね)をしながらの生活になりそうです。ちょっと辛いですが。
どうしてそこまでして、と思う方もいるでしょう。けれど、きちんと勉強しないままではどうしても限界を感じてしまうのです。
外来の予定表にも書いていますが、水曜の午後は予約で患者さんを診ています。この時間には、心の問題を抱えていて時間をかけてお話を聞いたり相談したりする必要がある子達が来ています。もちろん薬も使うこともありますが、午前中の風邪ひきの時間みたいに1時間で15人以上診たりは出来ません。僕は自分で興味があってそういう子達を診るようになったのですが、治っていく子がいる一方で、対応の難しい子には独学では対処しきれなくなってきているのです。やっぱり自分で本読むだけではなくて、専門の所で勉強しないとだめだなぁ、とずっと前から思っていました。
僕は元々秋田県人ですし、勉強して来たことを秋田に戻ってきて他の小児科医に伝えて広めていくという約束で行くわけですから、何年かしたら県内には戻ってきます。ただ、その時角館に来るかどうかは残念ながら分かりません。
4月からの事
さて、春からの公立病院小児科の体制ですが、小児科医は秋田大学小児科から後任が来ますからご心配なく。ただ、この春は大学の人事の大きな変更があり、未だに誰が角館に来るのか決まっていません。もしかしたら、長く勤務できる人がいなければ数ヶ月交代でお医者さんが替わる事になるという話もあります(もしそうなったらごめんなさい。この点分かり次第掲示します)。どうか人手不足な県内の小児科医の状況を理解して下さい。
恐らく、今度来るお医者さんは僕の後輩になりますが、みんな一般臨床研修は終わっていて、すでに専門の勉強を終えた人もいますから、かつて研究のために医者を離れていた僕が「3年間も研究してて勤務医やるの久しぶりだなぁ、不安だなぁ」という思いで角館に来たのと比べたら、よっぽど安心できますよ。
ところで角館、丸3年いたんですね、僕。実はこれまで一つの病院にこれだけ長く勤めたことはありませんでした。ここに来て初めて診た新生児の赤ちゃんが友達の子だったり、具合の悪い子を救急車に乗って大学病院まで運んだり、毎日のようにけいれんの子が運ばれてきた事があったり。大変なときはその都度周りの皆さんに助けられました。お医者さんなんて一人で何か出来るわけではなく、病院のスタッフ支えがあって初めて仕事が出来るのです。
とりあえず、少なくとも3月末まではここで仕事していますから。でも、わざわざ会いに来ないでね。病院のお医者さんなんて、体の調子よければ会わない方がいいんだから。