小児科通信 平成13年6月号
季節柄、喘息発作の多いシーズンです。普段喘息の薬を飲んでいる子や、これまで喘息発作を起こした事のある子は要注意。調子の悪い時には早めに受診を。(文責:渡部泰弘)
「大丈夫ですか?」
風邪の症状が長引いた時、あるいはなかなか熱が下がらない時、家族の方は誰でも「心配だな、大きな病気じゃないだろうな」と思うのが当たり前です。そこで「大丈夫なんでしょうか?」と聞かれる事がよくあります。
どこまでが「大丈夫」?〜医者が考えている事〜
ところが困ったことに、個人個人でその「大丈夫」の感覚がだいぶ違います。特に病気に関しては医者側とご家族の心配の度合いがかなり違う場合があり、説明に困る事があります。 例えば感染症で一週間たっても熱が下がらないという場合。一般に感染症というのは、大抵は3-4日で熱が下がってくる事が多いので、僕は3-4日でまだ熱が下がらない場合に「次の手」を考えるために一度検査をする事があります。そこで検査値と症状を見て、ある程度の治療方針修正をする訳です。
原因が分からずに熱が長く続く、いわゆる「不明熱」の原因として見逃してはいけないものに、悪性腫瘍(がん)や膠原病(リウマチの類の病気)があります。長く熱が続く場合、僕らは常にこの病気の見逃しが無いように気を配るのですが、これらはいずれも時間がたてば他の何らかの症状を出してきますし、普通の感染症に比べて体力の消耗が激しく、具合の悪い状態が続きます。ですから熱が続いても全身状態が良く、食事がとれる場合はあまり大きな心配をしなくてもいい事がほとんどです。
また、比較的多いのは咳が長く続く場合です。特に風邪をひきやすい子が保育所・幼稚園に行き始めた最初の数ヶ月は、症状は連続していても別の種類の風邪ひきを次々ともらってきているだけの場合もあります。こういう場合もやはり症状を見ながら薬を変えたり血液検査やレントゲン検査をして判断をしていきます。 長く続く咳でも見逃してはいけないものがあります。それは「結核」です。結核は大きな流行は無いものの、日本では確実に増えている病気です。1ヶ月以上も咳が続く場合には、ツベルクリン検査を行う事があります。
これらのように長く症状が続く場合には、僕が「もう少しこういう方針で治療していこう」と思っていても、家族の方から見れば「何か大きな病気じゃないのか、このまま公立病院にいていいのか、他の病院に移らなくてもいいのか」と考える事もあるでしょう。そういう場合はどうかその疑問を僕にお話ししていただければ、と思います。少しでも時間をとって僕の考えをお話しして、お互いの考えの違いを埋め合わせる事が出来るかもしれないし、僕もご家族がどういう心配をしているかを聞く事で、新たな判断材料になる場合があります。場合によっては他の医療機関へ紹介する事も出来ます。一人の医者の判断は決して100%正しい訳ではありませんし、決して医者に「すべてお任せします」という時代では無くなってきています。病気の子本人もご家族も、一緒に治療していくという姿勢が今後はより必要になってくると思います。
「検査しなくて大丈夫ですか?」
どんな症状だったらどんな検査をするか、という事には明確な規定はありません。検査をするかしないか、あるいはどんな検査をするかは、その医者の判断に任せられているのが現状です。僕はもちろん必要な検査はしますが、どちらかというと医者の中では検査をしない方だと思います。 日本は健康保険が充実しているため病院での個人負担はそれほど多くありません。そのためなのか、あるいは医者が検査値で病気を判断する教育を受けてきているためなのか、諸外国に比べて検査をすることが多く、医療費を押し上げている一因になっています。また「検査してもらえば安心」という日本人特有の感覚も関係しているでしょう。 僕は基本的には、なるべく不必要な検査をしないで症状から判断する事を心がけています。子供になるべく痛い事をしたくないという気持ちもあります。一方、検査がどうしても必要な場合もあります。
検査について一般的に誤解されている事は「検査すれば原因が分かる」と思われている事です。もちろん検査によって分かる事もありますが、実は検査で原因が特定できる事は少ないのが現状です。 例えば風邪症状で外来にきた時、のどの培養検査をする事があります。これはのどにどんな細菌がいるかを調べる検査ですが、風邪症状の原因の7-9割がウイルスで、ウイルスは院内で培養出来ません。ウイルスが原因の場合は症状に対しての薬だけで回復を待つのが基本方針ですし、細菌が検出されても、それが病原菌ではなく、のどに元々いる菌の場合もあります。 また、血液でアレルギー検査をする場合がありますが、これも「検査すればどんなアレルギーがあるか分かる」という検査ではありません。特定の(例えば卵白・ダニなど)項目をねらって検査に出しますが、この項目は200以上あります。一般に10項目以内で提出しますが、それ以外の項目については、どんなに強いアレルギーがあっても分かりません。また、検査値と症状は必ずしも一致しません。検査値が高くても軽症な子、検査で陰性でもアトピー性皮膚炎の症状が強い子など様々です。検査上で卵白アレルギーがあっても普通に食べられる子もいます。そんな時、僕は食事制限の指導はしません。検査値が大事な場合もありますが、検査の数字よりも症状をみて判断する方がいい場合も多いのです。 検査はおおまかな目安、と考えていただく方がいいかもしれません。