小児科通信 平成13年12月号

いよいよ年末です。年賀状は書いていますか? 冬休みの計画は立てましたか? 今年はどんな年でしたか? 来年は、今年よりも何か良い年になるといいですね。(文責:渡部泰弘)

予防接種、子どもにどう説明します?

 毎週月曜の午後は、病院で生まれた子の一ヶ月検診が終わってから予防接種の時間に充てています。午後外来のスタートを2時にしているので、健診の人数にもよりますが遅くとも3時頃から予防接種が始まります。

公立病院の小児科で行っているワクチンは次の通りです。

推奨接種:麻疹・風疹(1歳以上)、日本脳炎(主に3歳以上)

任意接種:水痘・おたふく風邪(1歳以上)、インフルエンザ(主に6ヶ月以上)、B型肝炎(特定の子が対象)

 市町村によって予防接種のやり方は異なり、角館近辺の町村では医療機関だけではなくそれぞれの市町村でも集団接種を行っています。BCG、ポリオ、3種混合などはそうですね。任意接種は基本的に病院で行い「接種するかしないか」は意見の分かれるところですが、僕個人の意見としては、基礎疾患の無い子であれば水痘・おたふくは学校に上がる年齢でかかっていなければワクチンを打った方がいいと思いますし、小さいうちなら水痘はかかっても悪くはないと思っています。インフルエンザは5歳までと受験生には勧めます。

 だいたい医者という者はこの予防接種のせいで子どもから嫌われます。なにしろ具合が悪くないのにいきなり注射される訳ですから、1歳台の子でも何度か予防接種を受けているうちに「病院の白い人は痛い事をするイヤな人だ」と覚えてきます。そうすると、月曜午後の予防接種外来は泣き叫ぶ子のオンパレードとなってしまう訳です。小さい子は抱っこして押さえて注射も出来ますが、日本脳炎のワクチンを打つような3歳以上の大きな子だと、注射が嫌で暴れ回って2人がかりでも押さえられない事がごくたまにあります。

 恐らく「今日は予防接種だよ」「病院で注射だよ」というとテコでも動かない子がいるのでしょう、ご家族の中には予防接種を隠して(中には「今日は注射じゃないよ」と子どもをだまして)連れて来る方もいらっしゃいます。出来るだけ嫌な思いをさせないで予防接種を乗り切りたいと思うのはご家族も僕らスタッフも同じですが、「今日は注射じゃないよ」と言われて来て注射される子の気持ちを考えると、それでいいのかな? と思います。

 

言葉が分かる年齢の子にはあらかじめ説明を

 僕は、言葉の分かる年齢の子であれば出来るならおうちで予防接種の説明をして来てもらえる方が望ましいと考えています。なぜ説明してきてもらった方がいいかというと、同じ嫌な事なら注射される本人がいくらかでも納得して予防接種を受ける方がいいと思うからです。「家で予防接種だと話すと病院に行きたくないって言うから」と、それを知らせずに(あるいは「注射は無いよ」と言って)連れて来られた子はだまされたのを知って「お母さんは(大人は)嘘つきだ」と考えます。その繰り返しは徐々に家族と子どもの信頼関係を失ってしまうだけで、長い目で見れば決して良い事ではありません。

 注射は誰でも(大人だって)嫌なものです。注射じゃなくても嫌な事はたくさん世の中にあります。これから生きていく上で辛い事・嫌な事でも乗り越えなければいけない事がたくさんあって、それは決して避けて通れません。予防接種もその一つ。だから言葉の分かる年齢の子には隠さずにお話しして、少しずつ「嫌な事を我慢する力」を育てていく方がいいと思います。

 ではどう説明するかですが一例として、僕は診察室でワクチンを打つ子に、よく「あのね、今日は病気に負けない強い元気な子になるお薬の注射の日なの。で、みんなやるんだけど今日は○○ちゃんの番だったの。それでお母さんに連れてきてもらったの。いい?」なんて言い方をします。お母さん方もうまく合わせてくれて「そうだよ、仮面ライダーみたいに強くなれるよ」なんて応援してくれます。お家で説明するときは「注射」という言葉は省いてもいいですよ。「注射する?」って子どもが聞いたら「う〜ん、分かんないからそれはお医者さんに聞いてみようか」とお話ししてくれればいいです。

 予防接種だけでなく、外来で点滴や検査のための採血が必要な子も、いきなり痛い事をする前に(スタッフも気をつけて声をかけていますが)家族の方からも「ばい菌調べるのに必要だから」「ばい菌やっつけるから」「栄養足りなくならないように」と痛い事をしなければいけない理由を一言説明してもらえると良いと思います。ちょっとした事かもしれませんが、大人と子どもの信頼関係を作り、子どもの我慢する気持ちを育てる役に立つかもしれません。

 

お母さんの感情は子どもに伝わる

 ところで僕は言葉の分からない1歳過ぎの子にも、予防接種の時に「ごめんね、ちょっと痛いけど、人生もっと辛い事があるから我慢してね」なんてわざわざ話しかける事がよくあります。言われた本人はもちろん意味は分かりませんが、小さな子への予防接種という事で緊張しているお母さんがそれを聞いて“ハハハ先生、そんな事言ったってこの子まだ分かんないわよ、でも確かにその通りね、やらなきゃいけない事だからちょっと我慢してね”という気持ちになってお母さんの緊張がほぐれれば、それは子どもにも伝わると思うのです。

 身近な大人(特にお母さん)の感情は小さな子でも(乳幼児でも!)意外と敏感に伝わるものです。お母さんが不安だと子どもも不安です。お母さんがリラックスしていると子どもも安心して落ち着いています。お母さんがイライラいしていると子どももイライラして落ち着かなくなり、それを見たお母さんがさらにイライラを募らせて叱ってしまうという悪循環にもなります。

 ちょっと話は脱線しますが、悪いことをした子への対応も「感情的に怒る」のではなく「冷静に叱る」方が効果的に思います。感情的になってしまうと「なぜいけないのか、なぜ叱るのか」を子どもに説明するのが難しくなりますね。訳も分からず怒られるだけでは、子どもの方も不満です。はっきりした理由があれば、叱られる事は嫌でも子どもは納得出来ると思います。

 もちろん、上手に叱るのは書くほど簡単にはいかないでしょうけれど……