小児科通信 平成13年1月号
小児科の仕事をしていると、お母さんを始め家族の方に伝えたい事がたくさん出てきます。診察の時にゆっくりお話が出来れば良いのですが、混んでいるとそうはいきません。そこで外来での待ち時間に読んでもらえるものを作りました。毎月発行できるか分かりませんが、少しづつ書いていこうと思います。(文責:小児科 渡部泰弘)
熱は心配?
家族の方が心配する症状で一番多いのは、発熱です。熱で頭がおかしくなるんでないか?」「熱冷ましを使っても下がらない」など・・・ 実は小児科医は、子どもの発熱をそれほど心配しません。熱なんか下げなくてもいいと思っています(多少語弊はありますが)。熱で頭がおかしくなる、つまり熱そのもので脳に障害を起こすことは絶対にありません。脳に障害を起こすような病気は、それは熱のせいではなくてそういう病気なのです(脳炎や髄膜炎など)。
感染症の熱はそんなに下げなくてもいい
子供は熱に対しては大人よりずっと抵抗力があります。大人で39度の熱というと、もうぐったりしてしまって寝込んでしまうような状態ですが、子供は39度あっても、けっこう元気でいる場合があります。また、子供の発熱の大半は感染症によって、つまり外から体にばい菌(ウイルスや細菌)が入って起こるものですが、熱のある状態というのは簡単に言うと、体の免疫の仕組みがばい菌の増殖を抑えているのです。熱を出して、体がばい菌と戦っている訳ですね。だから、熱冷ましの薬(解熱剤)を使ったグループと使わなかったグループでは、使わなかった方(つまり熱を上げていた方)が早く治ったというデータもあります。一方で、熱が高くなると困ることもいくつかあります。 ・元気がなくなって食欲が落ちてしまう事はよく見られます。 ・熱によってけいれんを起こす「熱性けいれん」の子もいます。 だから、元気な子供の熱は必ずしも下げなくてもいいのですが、熱が高くてそのせいで苦しいとか食べれないとか言う場合には体力が落ちてしまいます。だから、そういう時だけ熱冷ましの薬を使う方がいいのです。
解熱剤という薬について
解熱剤の効果は、使ったその時から数時間ぐらいしか効きません。しかも39-40度のような高い熱では平熱までは下がりません。病気の活動がまだ活発な時期なら、熱はまたすぐ上がってきます。普通の風邪ひきの熱だって数日続くのが当たり前で、解熱剤で一日で下がる訳ではありません。だから「昨日熱冷ましの薬をもらったんだけど、下がりません」と家族の方に言われる時(時々言われます)、僕は心の中で「しょうがないよ」と思っています。
世界中で、解熱剤をこれほど使っている国は日本の他には無いそうです。また、小児に危険な場合もある解熱剤(ボルタレン・ポンタールなど)もあります。これらの一部の解熱剤はインフルエンザ脳症という病気の死亡率を高めるというデータも出ていますし、インフルエンザ脳症という病気が世界中で日本に集中発生しているのは解熱剤のせいでは無いかという意見すらあります。 小児科では、小児に安全に使える解熱剤として、 ・アセトアミノフェン(アンヒバ坐薬、カロナール細粒) ・イブプロフェン(ユニプロン坐薬、ブルフェン)の2種を中心に使っています。
熱でけいれんが起こる?
熱でけいれんが起こるのを心配する方も多いのですが、高い熱が出ればけいれんが起こるというのは間違いです。 熱そのもので起こるけいれんを「熱性けいれん」と言いますが、これは実は起こす子は38度台でも起こす子がいるし、起こさない子は40度あっても起こさないのです。数十人に一人は起こす病気で、ほぼ学校に上がる年齢で起こさなくなります。熱性けいれんを繰り返す子には、予防のためにけいれんを抑える座薬を使います。解熱剤をたくさん使うわけではありません。だって、熱があってもけいれんを起こさなければいいのですから。
また、誤解して欲しくないのですが、熱があって起こるけいれんはすべて熱性けいれんでもありません。脳炎や髄膜炎、あるいはたまたま発熱時に重なったてんかん発作かもしれません。それを判断するのは医者の仕事ですが。
「遊べる・食べれる・眠れる」
一般的に言って子供の症状は変化が早く、さっきまで元気だと思っていたのが急に具合が悪くなる事もあります。だから、家族の方は(特に初めての子供さんだったりすると)余計に心配なのだと思います。基本的には、多少熱があっても「遊べる・食べれる・眠れる」の3つが大丈夫なら重症ではありません。熱がある時は一緒にいて見ている家族の方は心配かもしれませんが、「遊べる・食べれる・眠れる」ならば小児科医は心配しません(たとえ40度でも!)。
もう一度、解熱剤の使い方を考えてみてもいいかも知れませんね。