第九話「勝負」

武器が弾かれ、一撃を加える音が、決闘の時間の到来を示していた。
通常のプログラムが全て終了し、次は・・・・・決戦。
戦い好きな傭兵と、その連れに恋をした青年の決戦。

ファイナが見守る中、
二人の男が前に出る。
片方の男の武器は・・・・・・彼愛用の薙刀。
もう片方の男の武器は・・・二連刃の大鎌。



観客が、口笛を吹き、拍手をし、宴を喜んだ。
ついには審査員席までもがドンチャン騒ぎだった。



審判の「構え!」の掛け声で、観客達が静まる。
例えるならそう、嵐の前の静けさ。
あまりにも、不気味なくらいに、何も聞こえなかった。

そして。













「始めッ!!!!!!」







審判の、掛け声。

それを耳にした瞬間に、二人の男が武器を振りかざし、相手に斬りつける。
しかし、双方の武器は金属音を鳴らし、互いに弾き飛ばす。

本当なら、本物の武器での決闘など、審査員、観客達の誰もが認めるはずがなかった。
でも、今日(いま)は違った。

観客も、審査員も、そして審判さえも、それを認めて騒いでいる。
この決戦はまるで決められていた事だったかのように。








「うぉぉりゃああぁぁぁッ!!!!!!」
「ハアアァァァァァッ!!!!!!!」




キィン!

キィィン!


ガキィィン!




金属同士が打ち合い、はじき返される乾いた音。
その中で、二人の男は何故か笑っていた。




「ほらほら、何をしてるんだい!?容赦せずに斬りつけっぞ!」
「そうですか!面白いです!私も容赦しませんよ!?」





武器が重なり合い、火花を放ち、二人の笑顔が舞う。
火花が散る光景は、まるで琥珀色に輝く花びらのようだった。






「楽しいなぁ、ヴェイルさんよぉ!!!!!!」
「ええ、とってもですね!」


武器を振りかざし、相手に本気で斬りつける。
本気なのは当たり前。これは決戦なのだから。





その様子を、ファイナはじっと見つめている。

できれば、青年に勝って欲しい。そう願って。
突拍子も無い出会いだったけれど、今はそうなる事を願っている自分が居る。
そんな自分が、滑稽で少し笑えるファイナ。




互いの武器が激突し、そのまま互いが押し合った。
少しでも力負けすれば、自分側に武器が迫ってくる。




「・・・・・・こんなに楽しいのは、久しぶりだよ!」
「そうですか。それは何よりです!」
「・・・・・アンタも楽しいだろ!?」
「・・・ご名答です!!!!!」



キィン!




互いが仰け反り合う。
なんて楽しいんだろう。
なんて血が騒ぐんだろう。

互いに、そう思っていた。
そして、互いに分かっていた。



おそらく、観客達も、そう思っているに違いない。





なんて楽しそうなんだろう
、あの戦いに混ざって俺も戦いたい・・・・・!!!!!!!!!!!








武器を打ち鳴らし、体を舞うように捻り、そして再び弾き合う。








・・・・・・アンタ、結構強いじゃねえかよ・・・・気に入ったぜ・・・・!」
「・・・・私としては、ファイナさんに気に入られたいですがね!」


再び回り出す決戦の円舞曲。



誰もがその戦いを見守っていた。
誰もがその戦いに心を奪われていた。
誰もがその戦いを止めようとはしなかった。




そして誰もが、その戦いに自分も参加したいとさえ感じていた。






この決戦は決着を付けるのが目的だった。

なのに、今戦っている二人は、その事を忘れていた。



むしろ、永遠にこの楽しい戦いを続けていたいとさえ思っていた。




しかし、どんな戦いもいつかは決着が着く。
もちろんこの決戦も例外では無かった。















汗だくになったロサダが言う。












「・・・・・・・そろそろ・・・・・ケリ、付けるか」



「・・・・・・・ええ、同感です」




互いに距離を取り、武器を構える。



舞台は、大熱狂の嵐に包まれていた。
観客達は、思い思いに絶叫しながら、口笛を吹き、腕を振り上げ、応援の言葉を贈る。



ファイナは、二人に心配する感情すら起こらなかった。
お互い、武器を持って斬り合っている。一撃でも食らえば大怪我は免れないはずなのに。



・・・・・お互いが、楽しそうに笑っている為だろうか。
ほぼ殺し合いに近いはずなのに、緊張感がまったく無い。
まるで、スポーツを観戦してて興奮しているような感じだった。








二人が、互いに武器を構えたまま突進していく。

それが、この決戦の最後だった。















「だあぁぁぁりゃああぁぁぁぁッ!!!!!!!!!」
「せいやああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!」

















その瞬間、激しい金属音が辺り一面に鳴り響き、片方の武器が空に舞った。










「勝負」完