「ヤァアアアァッ!」
「そらぁぁっ!」
カキン!コキン!
キィィン!
「・・・・いってぇ・・・・」
一人の青年が、手に戦闘棒を持ったままよろめく。
「・・・・甘いね♪」
青年に打ち込みを入れた犯人が呟いた瞬間、周りで見ていたマトランやトーア達が歓声を上げる。
「・・・・・・ファイナさんの勝ちです!」
拍手が響く中、ロサダとイオリスが話している。
「どうだい?イオリス。」
「・・・・流石だね。太刀筋も完璧だし。そんじょそこらの人じゃ敵わないな。」
「でもな、イオリス。だとしたら俺たちに勝てるヤツは居るのかな?」
ニヤリと笑いながら、ロサダがイオリスに返す。
「・・・・・・さぁね。上には上が居るかもね。」
イオリスが真顔で言うものだから、ロサダも少し肩をすくめる。
イオリスが仲間に入ったあとに彼らが向かったのは、オーフ・オクイ村。
非常にゲーム好きな村で有名であり、月に数回は何らかの小さな大会が行われる。
そして今、ロサダ達が「興味があって」参加した今回の大会は、
ズバリ「バトル・ゲーム大会」。
大会用の戦闘棒を武器とし、相手に一発打ち込んだ方が勝ちという単純なルール。
優勝賞品は、賞金10000M(メルス)。
ロサダ曰く、「はした金だが、小遣いにはなる」だそうだ。
「次、イオリスさん対ヴェイルさん!」
審判がアナウンスする。
「おい、お呼ばれだぞイオリス君!」
「え・・・あ、おう!」
急にロサダに声を掛けられ、我に返ったように前に出るイオリス。
「さぁて・・・・お手並み拝見♪」
さっき店で買った缶アラードを飲みながら、ロサダが笑って呟く。
イオリスと戦うのは、黄色い青年のトーアだった。
緊張する素振りすら見せず、ただじっと戦闘棒をぶら下げて無表情で立っている。
「構え!」
審判の声が響く。
スッ・・・とイオリスが棒を構える。
相手の青年は、構えもせずにじっと立っている。
イオリスの方をじっと見つめたまま、であったが。
「始め!」
「セイヤアァァッ!!!」
気合いと共に、棒を構えて突進するイオリス。
そのまま、青年の腹に一撃を加える。
「・・・・なんだ、意外とあっけな・・・」
・・・・?
目の前に、青年が居ない。
混乱しているイオリスの耳に、ファイナからの声が響く。
「後ろ!後ろだよっ!!」
ハッと思い、とっさに後ろを振り向く。
しかし、時は既に遅かった。
ゴツッ!!!!!
「ぐあぁっ・・・・!!!!!」
棒の直撃を脳天にまともに喰らったイオリスが、よろめき、そして倒れる。
医療員が気絶したイオリスを運んでいく。
審判が、今気付いたかのように声を上げる。
「・・・・・・ヴェイルさんの勝ちです!」
周囲は、拍手喝采の嵐。
ファイナが「あーあ、イオリスさん負けちゃった・・・・」と漏らす。
「ねぇロサダ?」とロサダの顔をのぞくファイナ。
ロサダが、信じられないような顔をして唖然としている。
「ちょっとロサダ、どうしちゃったの!?」
「・・・・・・・お、おう」
少し経ってからロサダは反応する。
ロサダが、急に口を曲げてニヤリと笑う。
「あの青年・・・・・かなり強いな。戦ってみたいよ。」
ロサダの言葉を聞いたファイナ。
「そんなに強いんだ、あの人・・・」と呟く。
すると、さっきの青年がロサダとファイナの居る場所へ歩み寄ってくる。
しかし、手に持っていた武器はさっきの大会用戦闘棒では無い。
彼が手に持っていた得物は・・・・・・・大鎌。おそらく彼の武器であろう。
青年が、ロサダの前で止まる。
「・・・・・何の用だい?」とロサダ。
少しの沈黙の後、青年は口を開く。
「・・・・・・可愛い妹さんですね」
「は?」とロサダ。
「貴方の隣に居るじゃないですか。青い体躯の・・・・」
ファイナがそこで口を開く。
「あの・・・・私、この人の妹じゃ無いです」
「じゃあ・・・・恋人・・・ですか?」
無表情のまま、恥ずかしげも無く喋る青年。
「ちょ・・・ちょっと!!そんなんじゃありません!!」
ファイナが顔を赤くして怒鳴る。
そんなファイナに、「おいファイナ。俺は、あんまりまんざらでも無いぜ?」と囁くロサダ。
ファイナが「もう!やめてよロサダったら!」とまたしても怒鳴る。やはり顔は赤いままだった。
「ファイナさん・・・・って言うんですか」
少し微笑(わら)って、青年が呟く。
ロサダが「ああ。そうだ。コイツの名だな。」と一言。
ファイナは、「そもそも、貴方なんですか!急に話し掛けてきて!」と怒鳴る。
次の瞬間、ロサダが耳を疑うような事をその口から吐いた。
「ファイナ、どうやらこの青年君は、お前に一目惚れしたようだぜ?」
急にファイナが「え・・・・え・・・!?」と焦り始める。顔の赤みが一層増した。
青年は、ほんのり顔を赤くして下を向いている。
ロサダが、「アンタ、否定してないな・・・」と笑いながら言う。
更に下を向く青年。
ファイナが「た・・・・確かにこの人かなり格好いいけど・・・・で、でも急に・・・・・なんて・・・・」と
顔を赤くしたまま喋り続ける。
そこへロサダが再び口を挟む。
「・・・・・ファイナ。あながちお前もまんざらでも無いだろ」と。やはり笑いながら。
ファイナが「・・・・そりゃ・・・・そうだけど・・・・でも・・・・」と途惑っている。
次の瞬間ロサダが、とんでもない一言を口走った。
「青年君。実は俺もファイナの事は狙ってたんだ。
俺に本気勝負で勝てたら、ファイナを譲ってやるよ。」
ファイナが心の中で、(ロサダ・・・・・この人と戦いたかったんだっけ・・・・)とロサダの真意を察する。
ロサダが本当にファイナが好きだったのかは想像が付かなかったが。
「その言葉・・・・・本当ですね・・・・?」
青年が、ロサダに問いかける。
「本当だ。」とロサダ。
わずかに微笑むロサダと、無表情な顔の青年。
そして、ロサダが審判の所まで歩いていく。
ロサダが、何かを審判と話している。
そして・・・・・・
「これより、特別試合をプログラムに追加します!
これは、漢(おとこ)と漢(おとこ)の対決です!!!」
と、審判の声。
周りで試合を見ていたマトラン、トーア達がざわめく。
そして審判が、これは二人の男が一人の女性を巡る決戦である事を説明する。
マトラン達が、「面白そうだ!」「本気勝負(マジバトル)だよ!」「早く見せろー!」と叫び始める。
トーア達も「なるほど・・・・興味がある・・・・」などと呟いている。
当の本人のファイナは、まるで自分がお姫様にでもなったような気分で、恥ずかしかった。
しかし、実は少々嬉しかったりもしていた。
決戦は、通常のプログラムが終わったあとに行われる事に決まった。
すなわちそれ、今から約12時間後。
観客達はその決戦を楽しみにとっておいて、
今行われている試合に没頭していた。
その頃、ファイナは内心思っていた。
「・・・・・・・勝ってほしいなぁ・・・・あの人・・・・・・」
「遊戯」完