「ば・・・・化け物・・・・・?」



ロサダの口から出たその言葉に、ファイナは耳を疑った。
じゃあ、今目の前に居るロサダやあの人は、怪物だというのか。

「なぁ・・・ファイナ。」

急に声を掛けられ、ギクリとするファイナ。
ロサダが喋り続ける。


「お前はどうして、俺やあいつのような属性の力――――エレメンタル・パワーを使えないと思う?」


今、自分が思っている事をズバリと指摘され、ファイナの目が丸くなる。
でも、確かにそうだ。
自分は、水属性の攻撃なんか使えない。

「・・・・・どうして・・・・?」






その言葉にロサダが反応し、口を開く。


「スピリットってのは・・・・・一種の先祖返りだ。」
「先祖返り・・・・?」とファイナ。

「あぁ。先祖返りだ。最近の生物学で明らかになった事だが、
 100年くらい昔は、どんなトーアでも俺達のような属性の力が使えたらしいんだ。」

ファイナが、目を丸くして黙って聞いている。


「しかし、このジャー・アラル大陸は、あまりにも面積が大きい。その為、
 全体的な勢力は他の島と比べてもかなり大きい。
 オマケに、この大陸にはアルバ・カテルが居る。
 当時有名だった大盗賊団や
、マフィアも手が出なかったんだろう、
 この大陸はとても平和だったんだよ。   ―――――――いや、平和すぎたんだ。




「・・・あ・・・あるば・・・?」
ファイナが聞き返す。
ロサダが、ああ。と返事をして話を続ける。

「ファイナは知らなかったか・・・。
 アルバ・カテルっちゅうのはな、この大陸の警察みたいなものだよ。
 かなり勢力が大きくてな、そこらへんの盗賊団なんかあっというまに片付ける程だった。
 今でもこの大陸に存在する、大陸の「政府」であり「警察」であり、「軍隊」でもあるんだ。」



正直、政治どうこうは分からないファイナだったが、ロサダの言う事は理解できた。
少しの沈黙の後、ロサダは続ける。



「大陸は、あまりにも敵が居なさすぎた。居たとしても、すぐに駆除できる危険なラヒ程度。
 トーア達が属性の力を使うような危険も起きなくなり、戦士をやめて一人の村人として畑を作るトーアも出てきた。
 そして、そのまま属性の力が使われずに永い時が経った結果、いつしかトーア達の属性の力は衰え、
 今ではその力を使う事が出来るトーア
は殆ど居なくなってしまったんだよ。」



ファイナが、なんとも言えない不思議な顔をしている。
さっきからイオリスが、うつろな目で下を向いている。








「そして・・・・・そんなトーア達の中で、
 生まれる時に遺伝子上の問題で先祖返りを起こし、
 属性の力を使えるようになってしまった者を・・・・・



















・・・・・・スピリットと呼ぶんだ。」









ファイナが、顔を歪めている。
イオリスは、無表情で窓の外を見ていた。





その内、ファイナが口を開く。


「で・・・でも、それだけ特別な能力を持っているんだったら、
 みんなから尊敬されるよね・・・?だから何も悪い事なんか・・・・・。」



「ところが、そうはいかなかったのさ。」

ロサダが口を開く。






スピリットは、他のトーアからしたら、魔法を使う悪魔にように見える。
 人々は、いつしかスピリットを恐れる
ようになっていったんだ。」

「・・・・・!」
ファイナが口を押さえて目を丸くする。


「たとえどんなに強くても、唯人々からは忌み嫌われる。それがスピリットの運命なんだよ。
 さっき、そこの兄ちゃんに『すげえな、オイ!』とか言って群がってきた野次馬も居るが、
 それは幸い、この村はスピリットをしっかり理解しているマトランが多いだけだったんだよ。」

 




「・・・・・・・・。」


ファイナが、
下を向いて黙りこくっている。


「・・・・・ファイナ?」
ロサダがファイナの様子を伺おうと、ファイナの顔をのぞき込む。



「・・・・・・!」

















ファイナが、泣いていた。

「・・・・・・なんで・・・・・どうして・・・・・・
 他の人たちより凄くて、強いのに・・・・・・・・・・・同じトーアのはずなのに・・・・
 ・・・・生まれ持った能力だから・・・・仕方ないのに・・・・
 

 
・・・・・・・どうして・・・・・・」



イオリスが、「お嬢ちゃん・・・・。」とファイナの頭をなでる。
しゃっくりをしながら
、ファイナは話し続ける。


「・・・・・・ロサダや・・・・・貴方も・・・・・・・・なんでそんなに苦しまなきゃならないの・・・・・?」


ふぅ、とため息をついて。


ロサダが、ファイナに囁いた。




















「泣くな、ファイナ。
  ・・・・・・そんな事、もう慣れたよ。」


















そう言われた瞬間、ファイナがロサダに飛びつき、大声で鳴き始めていた。




















「さぁて・・・・・そろそろこの村を出るかぁ。」
ロサダが、荷物をまとめて言う。


「・・・・・・・・うん」
ファイナが、少し微笑みながら返す。







ロサダが歩き始めた。
それに続くファイナ。
そして・・・・・その後ろに続く、銀色の男。





歩きながら、ロサダが言う。


「なぁ・・・・アンタ。
 どうして、俺達と一緒に旅なんてしようと思ったんだ?」




それに答えるは、銀色の男。








「・・・・・・・日常が飽きた。冒険をしてみたくなったからだよ。」



ファイナが微笑む。
そしてその直後、「あ・・・・」と声を漏らす。

「ん?どうした、ファイナちゃん。」
銀色の男が言う。



「すっかり聞くの忘れてたぁ・・・・・
貴方、名前はなんていうの?」














微笑んで、男が言う。


























「俺の名前はな、イオリス・・・・っていうんだ。」
 















「・・・・・・良い名だろ?」









怪物 完