「あ・・・・!?」



ファイナは、目の前で起こった事が信じられなかった。

突然、マトランが光り出し、そしてトーアに変身した。


さっきのカメレオンもどきはと言うと、唸り声を上げて警戒している。
そんな怪物に向かって、「さぁ・・・始めようか♪」などと話し掛けている銀色のトーア。



突然、怪物が舌を伸ばしてくる。




ファイナがそれに気付き、「あぶな・・・!!」まで言いかけた時、
既に舌は、銀色のトーアの胸を貫いていた。

しかし、銀色のトーアが徐々に消えていく。
まさか、とロサダが言いかける。


ロサダ「残像・・・?」







その通りだった。
銀色のトーアの姿は、完全に消えてしまっていたのである。
その代わり、その場所にさっきの銀色のマトランが居た。


怪物の舌を、むんずと掴んだ状態で。



ファイナは思い出した。
あの怪物の唾は、酸性の劇物。
素手で触ろうものなら、手が溶けてしまう。


が、それも簡単な話だった。
彼は、客観的に見ての左手に、銀色のグローブをしていたのだ。
ファイナがその事に気付いたその瞬間、




イオリス「セイッ!!」


ブチッ






怪物が、凄まじいまでの悲鳴を上げる。
マトランの左手には、千切れた怪物の舌が巻き付いていた。

イオリス「これでもう、舌も使えまい・・・・。」


切れた舌を投げ捨て、呟くイオリス。
そして、トーアの姿に戻る。


急に目つきが真剣になるイオリス。
武器をゆっくりと構え、息をゆっくりと吐いていく。
彼の足は、地面をしっかりと踏みしめて。
彼の目は、怪物をしっかりと捕らえていて。

その瞬間―――










ファイナ「痛っ!」









急にファイナが耳を押さえる。
ロサダも耳を押さえている。

ロサダ「なんだ・・・?耳が急に・・・・。」


見ると、イオリスの武器に紫の波動が集まっている。
その波動から、定期的にピ―――・・という音が聞こえる。
いや・・・・違う、これは・・・・耳鳴り・・・・・?



イオリスが、波動を溜めたまま、武器を回し始める。
まるで運命の輪が狂々(くるくる)と回りだしたかのように。
どんどん回転が速くなっていく。


ロサダ「・・・・・何かやるぞ・・・・」
ファイナ「・・・・雰囲気で大体分かる・・・・・」




耳鳴りも大きくなり、回転も速さを増し、そして――――――

























イオリス「ソニックレボリューション・・・・!!」












静かに呟いた瞬間、
地面にザッと武器が突き立てられ、波動が地面に染み込んでいくように消えていく。

怪物は、何もダメージを受けていないように見える。

しかし、次の瞬間―




















「ギィィエェェァアアアアア!!!!!!!!!」




怪物が急に苦しみだした。
地面を、ごろごろとのたうち回っている。
まるで、生きながらにして心臓でも握り潰されたかのように。

仰向けになり、気持ち悪い腹を見せて苦しむ怪物。
ロサダは、苦虫でも噛み潰したような顔で怪物を見て、
ファイナはもはや目をそらしている。

















潰されたハエのように、怪物はピクピクと痙攣し、
次に硬直して、そして動かなくなった。










イオリス「・・・・・・フン」


武器を回し、持ち直す。

イオリスは、ただじっと動かなくなった怪物を見つめていた。
その目からは、彼の冷酷さが滲み出ているようだった。
そう、まるであの時のロサダのように・・・。


「・・・・・あの」

ファイナが、イオリスに話し掛ける。




ファイナ「貴方・・・・何をしたの・・・・?」
イオリス「殺した」

すぐ返答が返ってきた。


ファイナ「いや・・・・そうじゃなくて、どうして死んだの・・?
               地面に武器を突き刺しただけで・・・・・・。」




イオリス「・・・・あれはを地面に伝わらせていただけだよ。」


そう言われて、ファイナは気付いた。


ロサダがを自在に操る能力を持っているように、









この人はを自在に操る能力を持っているのだ、と。



あの時、この人は巨大な「音」の塊を怪物の耳に叩き込んで、
鼓膜、三半規管を破壊し、脳にまでダメージを与え、ついには殺したんだ・・・。





でも、何故か自分は、水の力を自在に操れない。
いや、故郷だったあの村に居たトーア達だって、一人もそんな能力を使える人は居なかった。
じゃあ・・・・・どうして?






どうして、今此所に居る2人は、そんな能力を使えるの・・・・?

そんな問いが、ファイナの頭の中を駆けめぐっていた。







ロサダが、腹を押さえながらイオリスに話し掛ける。

ロサダ「あんた・・・・・まさか・・・・・」
イオリス「おおっと、まずは、アンタの風穴の空いた腹をなんとかするべきだな・・・。」


わざと話を遮るように喋るイオリス。
ロサダに肩を貸し、さっきのコーヒー店通り過ぎ、医療所へと運ぶ。



街中で騒動を起こしてしまったためか、野次馬が怪物の死骸に群がっている。
数人、イオリスに「すげぇな、アンタ!」「ちょっと話を聞かせてくれよ!」と話し掛けてくるマトランも居た。
しかし、ファイナが「今怪我人を背負ってるでしょ!忙しいの!!」と返す。
「なんだと・・・!?」と逆ギレ寸前の野次馬に、イオリスが一言。



「・・・・・・邪魔するなら、相手になってやっても良いんだよ?」


武器のカッターをチャキリと鳴らすだけで、野次馬達は後に下がってしまう。








そして道中、イオリスが無表情で居るのをファイナは不思議そうに見ていた。








音響 終