思ったより楽しい。
ファイナは、ロサダとの道中、そう思った。
ロサダ自身も時々、昔あった話などをしてくれるし、飽きなかった。

ロサダは、持っている地図を彼女に見せ、これから何処に行くかを必ず教えてくれた。



「おい、起きろ」
木の下で眠っていたファイナを起こすロサダ。
「・・・んー?」
数秒経って返答が返ってくる。

「もぅ朝ー・・?」
気だるそうに起きるファイナ。
「見て分からんかい?」と皮肉った返答が返ってきた。


「朝一で悪いけど、食料が少なくなってきた。
 この近くに村があるらしいから、まずそこまで歩くぞ。」

少し辛いが、朝ご飯が食べられないのもちょっと辛い。
ファイナは寝ぼけた頭と体を起こし、準備をする。

ロサダの方は、もう既に準備が出来ていた。
ファイナに少し寝坊をさせてやろうとしたらしい。


ファイナはそれに気付いたが、
「自分を寝かせておいてくれた」という事にして足を動かした。
















ペト・ムミ村。
大陸中で流行しているコーヒー「アラード」の豆は此所でしか採れない。
その豆の輸出のおかげで、大変お金のある村でもある。
そして、この村は、お客を大変大事に扱う事でも有名である。


村の大通り、とあるコーヒー屋で朝一番の飲み物を注文した。
ファイナもロサダも、アラードは大好きなのである。
その内に、コーヒーが運ばれてきた。


コーヒーを口にし、「やっぱりアラードはいいな〜♪」と呟くファイナ。
その隣に座っていた、銀色のマトランがファイナに話し掛ける。
「お嬢さん・・・。」
「?  何ですか?」



「コーヒーというのは、静かに飲むものだよ・・・・・。」




静かに注意され、少し落ち込むファイナ。
「確かにそれは同感だな・・。」とロサダの追撃を受ける。
今日は悪い日だ・・・彼女はそう思いながら、コーヒーを口にした。

























「ぐぅあぁぁぁっ・・・・・!!!!!!!」












突然、店の外で聞こえた悲鳴にコーヒーを吹き出すファイナ。
ロサダが「うわ!」と悲鳴を上げる。
店主は、「な・・・何だ!?」とファイナの吐いたコーヒー等に目もくれず外に飛び出す。



その後を追うように、テーブルにお金を置いて、二人は外に飛び出した。








悲鳴が聞こえた場所はそう遠くない。
大急ぎで道を走る二人。

走っている最中、ロサダが呟いた。
「またダーカーかい・・・・。」
「・・・ダーカー?」
ファイナが聞き返す。
走りながらではあったけれど。


ロサダは実に分かりやすく、そして簡潔に教えてくれた。




「アンタがアンタの故郷で見た、あの化け物だよ!」



そう言って道を曲がった瞬間、二人の前に惨劇の光景が広がった。




マトランのものと思われる体の破片が、そこら中に散らばっていた。
そしてそのすぐ側には、あの時の怪物とは似ても似つかぬ両生類のような怪物が居た。



「・・・・・・戦(や)るぞ」


薙刀を持ち直し、構えるロサダ。
それを見て、ハッと我に返ったように剣を構えるファイナ。



怪物の口から垂れる唾が地面を溶かしている。
酸性の劇物のいようだ。




同時に怪物に接近していく二人。
ファイナの剣とロサダの薙刀が同時に振り下ろされる。





「!?」








怪物の姿が無い。
「ど・・・何処だ・・!?」
体を構えたまま、あっちこっちを見回すロサダ。

「え・・え・・・・!?」
ファイナも焦りを隠せずに動揺する。






「・・・・・・・・?」
何かがおかしい。
ファイナが「ある事」に気付く。

目の前に、何の変哲のない景色が広がっている。さっきと変わらない景色だ。
しかし、その景色に違和感がある。





まるで、景色の一部がカメレオンの形に膨らんでいるような・・・・・・・・。





その瞬間、その違和感がある景色の一部に、色が付き始めた。
前足・・・・・後足・・・・・頭・・・・・次々と透明化していた体が姿を現す。




次の瞬間、










ビュルルルルルルルルッ!!!!!!





ファイナ「!?」






突然、怪物が舌をもの凄い勢いで伸ばしてくる。

しかし、その舌は、ファイナを狙ってはいなかった。

狙ったのは、ファイナの後ろ、赤い傭兵。






ファイナ「ロサダ、危ないッ!」


声に気付いて振り向くロサダ。
しかし、もう遅かった。


舌は、まるで剣のように、ロサダの胸を貫いていた。





「がぁっ・・・!!!!」



やはりロサダと言えど効いているのか、

苦痛の声を漏らす。






舌を戻す怪物。
まるで血の味を楽しんでいるかのような目をする。



ロサダの居る所へ駆け寄るファイナ。
「大丈夫!?」と何度も繰り返す。
ロサダの返答は、「こんな傷、今まで何度も負ってきた」らしい。


立ち上がろうとするも、やはり地に這いつくばるロサダ。
どんなに鍛えていても、体を貫通する傷はダメージが大きい。
ついに血を吐き出す。






ファイナは決心した。





「ここは私が頑張らなくちゃ・・・・・・」




剣を持ち直し、体を構えるファイナ。
「ふっ!」の掛け声と共に、怪物目掛けて突っ込んでいく。
舌の剣が迎撃をしてくるも、素速さならファイナの方がロサダより上。
右へ左へ体をかわしながら、怪物の目の前でジャンプする。


ファイナが怪物の上に馬乗りになる。
剣を振り上げ、そのまま怪物の背に斬撃を加える。


凄まじい怪物の悲鳴と、悲鳴の主の血。



顔に血がかかっても、必死で背中に斬撃を与え続けるファイナ。
そして、


「ハアアァァァッ!」


気合いと共に、怪物の背中に思いっきり剣を突き刺すファイナ。
怪物が、耳が割れんばかりに悲鳴を上げる。




怪物が、苦し紛れに舌を伸ばす。
その方向は、自身の背中に向かっていた。

「!」


舌がファイナをつかむ。
そしてそのままファイナを持ち上げ、ロサダの居る方向へと思いっきり叩き付ける。


「げふっ!!!!」


背中から思いっきり地面に落下したファイナ。
呼吸すら上手く出来ず、咳をしながらもんどり打つ。



ロサダが這いずりながらファイナの元へ寄り添う。
大丈夫か、と声を掛けられファイナはうなずく。



しかし次の瞬間、怪物が二人に飛び掛かってきた。



「!!」



目をつむる二人。
・・・・・・しかし、攻撃が来ない。


目を開くと、怪物が後ろに吹っ飛んでいた。










そして、怪物の前に立つ一人の人物が居た。


朝、コーヒー屋でファイナに注意をくれたあの銀色のマトランだった。







マトラン「見ていられないよ・・・・。」

倒れている二人にそう呟くマトラン。


二人が叫ぶ。

ロサダ「あんた・・・・危ねぇぞ!」
ファイナ「逃げて!早く!」

しかし、何処吹く風と言うようにマトランは返す。
マトラン「大丈夫。まぁ見ていなさいな。」







マトラン「変身(チェンジ)!!!!」






突然、マトランの周りに光球が浮かび、彼の周りをぐるぐると回り始める。








そして、光球は、一つとなって彼を包み込む。





ロサダ「な・・・何なんだ一体・・・?」




















光球が消える。
しかし、光球の中から現れた彼の姿は、マトランでは無かった。





















その姿は、どう見てもトーアだった。
















イオリス「さぁ・・・・・始めようか♪」


















「変身」終