そこは、空中。
雲が防弾ガラスの向こうを無機質に流れていく。
特別上級兵なら、これぐらいの操縦は出来る。
何故なら、この技術は師匠から教えて貰ったものだから。
かすかに残る飛行機雲を辿り、とにかく前へ、前へ。
一心不乱に突き進む。
もし少しでも遅れてしまえば、その間にインヴィディアは落下地点にて飛行を止め、地面に向かって落下する。
そうなれば――――
一瞬。
向こうに、かすかに前を飛ぶ黒い物体が見えた。
それを発見した途端、ロサダはエンジンの出力を一気に上げた。
いきなりスピードが加速し、雲を突き破らんばかりに突き進む。
ロサダは出力を落とさず、むしろ更に上げている。
そして雲はとうとう高速で窓の外を流れ、殆ど目で追うことすら出来なくなった。
インヴィディアとの距離が一気に縮まった。
しっかりと狙いを定め、一瞬インヴィディアが絶好の位置に来た。
すかさずロサダはハンドルのショットボタンを押す。
しかし、流石にアルバ・カテルが造った戦争兵器だけある。
内蔵されたコンピューターが、後ろから迫るショットを察知し、次々と避ける。
ロサダが最早ボタンを連打し、縦横無尽に動きながらショットを連続で放つも、
インヴィディアはまるで自身とショットが同じ極の磁石であるかのように、あまりにも正確に避ける。
しかし。
一瞬、ショットがインヴィディアをかすった。
当たりこそしなかったものの、希望はある。
それがロサダの連打する手を速くさせた。
「・・・・!?」
横から、一人の男が「飛行」してきた。
そしていきなりロサダの乗っている戦闘機に、そのライフルのような銃を向けた。
間一髪、なんとか避けた。
ロサダがそっちの方向を見ると、それはあの白い龍顔の男だった。
どうやらインヴィディアを破壊させないつもりらしく、銃から何度も迸る光線がそれを言わんばかりに向かってきた。
こっちは戦闘機だ。
小回りが効くわけでもないし、大きいから当たる確率は己ずと高くなる。
しかし、あの男は飛ぶ能力を使用しているため、動きも素早く、こっちのショットなんぞインヴィディア以上に避けられる筈。
ならば。
狙うのは、インヴィディアのみ。
男を跳ね飛ばさんばかりにいきなりスピードを上げ、インヴィディアに更に迫り、ショット。
しかし、男が発射してくる光線を避けるのもあって、さきほど以上に当たらない。
もはやロサダはインヴィディアだけを見つめ、ただただショットボタンを連打していた。
「がぁッ・・・!?」
衝撃。
一瞬大きく揺れて爆発音がした直後、ガガガガと不快な音を立てながら機体が言う事を聞かなくなった。
そしてその瞬間、ロサダは悟った。
―――撃墜された―――
しかし、一応この機体にも「脱出ポッド」はある。
非常用だが、それにもショット機能はある。
すかさずスイッチを押し、離脱をした。
しかし。
脱出ポッドまでもが破壊されていた。
試しにハンドルを動かしてみるロサダ。
現在はギリギリ飛行できている状態だが、いつ爆発してもおかしくない―――
「・・・・俺も、年貢の納め時かな」
一瞬、呟き。
ロサダはエンジン出力を最大にした。
この状態でその操作は無謀だった。
ボロボロのエンジンは更に悲鳴を上げるも、ロサダはそのまま出力を上げ続ける。
そう、インヴィディアに向かって一直線に。
この状態で、インヴィディアに当たるまでショットを当てる時間など無かった。
ならば、どうするか―――?
ロサダのその決意を読み取ってしまったのか、
男が更にショットを放つ。
避ける時間など無かった。
一直線に突き進む機体が更に破壊され、その悲鳴が更に鳴り響く。
次々と機体の破片が雲の中へ散っていく事すら、ロサダには見えていなかった。
そして、それは一瞬だった。
インヴィディアが前方5メートルもない近距離に近付いた。
このまま自分が突進しても、避けられる。
ならば、こうするしかなかった。
ロサダが初めて、ハンドルから手を放した。
そして、側に置いてあった薙刀をむしり取り、思いっきり力を込める。
その瞬間、薙刀から尋常でない程の炎が迸り―――――
「・・・うおおおおおぉぉッ・・・!!!!!!!」
次の瞬間。
ロサダの乗った機体もろとも、インヴィディアは爆発に飲み込まれ、更に大きな爆発と化した。
幸いにも、地上から遠く離れた上空での爆発だったため、地上には少しの爆風が来ただけだった。
そして、男は。
あまりにも大きかった規模の爆発に飲み込まれ、そして飛行能力を失ったのか、ハエのように雲の中へと落下していく。
なんとか飛行をしようとするも、彼の翼は既に焼け焦げていた。
「・・・己・・・・私はまだ・・・死なんぞ・・・・!!」
そう呟きながら、どんどん地面へと落下していく男。
その上には、炎の塊と化した機体と、インヴィディアの残骸が映っていた。
しかし。
その瞬間、男はとんでもないものを見た。
そう。「見えた」のだ。
燃えさかる炎の中で――――「彼」の目が。
男がそれをしっかり認識する間もなかった。
「うらああぁぁぁぁァァァァッ!!!!」
「裂空」完