「おう、久しぶりじゃねぇかメイス!いい子にしてたか〜?」
エクシムの挑発的な言葉が響く。
その言葉ににっこりと不気味な程の笑顔を浮かべて返すメイス。
「まぁね。
君みたいな問題児とは違うつもりだから」
「ほう。じゃあ教えてもらおうかな?
天才児さんとやらの実力・・・ってモンを、な?」
お互い、武器を構える。
メイスはその大きな薙刀を、前方に突き出すようにして。
エクシムは、不気味な程に体勢を低くして。
いきなり。
何の前触れもなく、お互いの武器が打ち合い、火花を散らし、乾いた金属音を響かせる。
そんな戦いの最中、ファイナは思った。
なんて、自分は情けないんだろう。
あんな大きな事を言っておいて、結局助けられてる。
―――私にも。
私にも、ロサダ達みたいな力があれば。
戦いたい。
自分の為じゃなく、仲間の為に。
戦う力が、欲しい。
仲間の役に、立ちたい・・・・!!!
なおも続く金属音。
お互い互角に見えるが、あまりにもお互いの攻撃がするどいので、
まるで武器同士が磁石か何かで引きつけられているようだった。
エクシムが一旦短い間合いを取り、目を細める。
その瞬間、メイスの視界からエクシムの姿が消えた。
耳を押さえたくなる程の鈍い音が響き、エクシムの蹴りがメイスの顔面へ直撃する。
そのまま、メイスは一言も発さぬまま、地面に倒れ込んだ。
そしてエクシムの矛先がファイナへと向けられた。
「待たせたなぁ?君の番だぜ・・・」と呟きつつ、ゆっくりとにじりよってくる。
もう戦うしかない。
どうせ足手まといなら、死んだ方がマシだ。
死を覚悟した。
最も恐れるべきものを克服した彼女にとって、もはや恐怖はなかった。
自暴自棄ではない。
決死なのだ。
剣を握り直し、構える。
その前とは打って変わった目つきに、エクシムも挑発を止め、改めて構える。
まっすぐにエクシムを見つめたまま、ファイナの足が走り出す。
どんどんエクシムが近くなってくる。
わずか数秒の出来事だった筈だが、彼女にとっては接近している時間がとても長く感じられた。
エクシムが、武器を振りかざすのが一瞬見えた。
どうせ死ぬなら、一撃でも加えてから死んでやる。
決心した彼女は、もはや恐れる事なく剣を持ったその腕を、思いっきり振りかざした。
肉が引き裂かれる感触。
身体の細胞が無理矢理分離され、血液が迸った。
すぐさま腹を押さえて、よろめく。
――――そう、エクシムが。
「・・・・な・・・何が起きた・・・・ッ!?」
痛む腹部を押さえつつ、体勢を立て直すエクシム。
あのファイナの速度ならば、彼女の剣を弾き、トドメを刺す事すら出来た筈。
なのに・・・彼女の走る速度が――――いきなり、超加速した。
顔を上げるエクシム。
そして固まった。
彼の目に映っていた光景。
それは――――
全身が光り輝き、その剣は波動を迸らせていた。
威圧感すら感じるその姿に、エクシムは腹部の痛みすら忘れて後ずさる。
「・・・あなた、言ったよね。力の差を見せて欲しい、って。
見せてあげるから、その目によーく焼き付けておいてね♪」
そう言うと、ファイナは自らの右足に剣を添える。
次の瞬間、なんと彼女の剣から光り輝く水が迸り、彼女の足に絡みついた。
体勢を低くし、右足に光を纏わせて構える。
その一連の動作に、エクシムはただ目を奪われていた。
いきなりファイナが、常人には不可能と思えるような高さまで跳んだ。
そして空中回転し、右足の裏をエクシムに標準を合わせて――――!!!!!!!!
「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
ファイナのその超高速の跳び蹴りを、矛で受け止めるエクシム。
しかし、その考えこそ無謀だった。
矛は弾き飛ばされ、勢い衰えないその右足が彼の胸を直撃した。
喉から息が無理矢理吐かれ、そのまま勢い余って後ろへ吹っ飛んだ。
ファイナが着地した時、エクシムは仰向けに倒れたまま動かなかった。
死んではいなかったようだが、かなりの呼吸困難状態らしく、息すら出来ぬ喉先からヒュー、ヒューという奇怪な音が漏れている。
ファイナはトドメすら刺さず、「・・・おやすみ♪」とだけ呟いて彼から離れた。
さぁ、強敵を倒した喜びになど浸っている暇は無かった。
すぐさま気絶していたメイスを起こし無事を確認、ロサダ達のもとへと急いだ。
―――急がなきゃ・・・・!!―――
「決死」完