「じゃあ、行ってくるな」
「おう、いってきな、イオリスー♪」
今日もイオリスは部屋を出て行った。
イオリス自身それを認めないかもしれないが、彼には「親友」が出来た。
あの、少女。
名前は「リルス」と言うらしい。
いつも雪の積もった丘に独り座っている彼女を見ていると、自分自身心が安らぐという事は自覚できていた。
恋では、ない。
どこか―――そう、大切な妹と一緒にいるような感じ。
リルス自身も、イオリスの毎日通いを拒否しなかった。
むしろ彼女自身も、イオリスと話していて楽しそうだった。
不安になるくらいに、幸せだった。
イオリスも、リルスも。
「ねぇ、イオリス」
「・・・ん?どうした?」
「どうして最初、私に話し掛けてきたの?」
「・・・・魔が差した、かな」
その皮肉に、クスクスと笑うリルス。
別に怒っているわけではなさそうだ。笑ってるし。
「イオリスは、どうしてこの村に来ようと思ったの?」
「・・・ん・・・・そうだな・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・気まぐれ、かな」
「・・・そっか」
そう呟き、イオリスに笑顔を見せるリルス。
その笑顔に、どこか胸の奥が熱くなるイオリス。不覚だった。
明らかに顔を赤くしてそっぽを向くイオリスを見て、リルスはクスクスと笑った。
空は相変わらず、高く、そして蒼かった。
かすかに降る雪が、お互いの存在もあって、とても心地よかった。
いや、違う。
お互いが隣に居る心地よさを、雪が綺麗に飾り付けている。
そんな感じだった。
「うわぁぁぁーッ!!!」
「逃げろーッ!」
いきなりの悲鳴に、とっさに構えるイオリス。
マトラン達が我先にとこっちの方向に逃げてくる。
「・・・・おいでなすったな・・・・」
イオリスが、カッターをチャキリと鳴らし、構える。
「・・・・リルス。逃げろ・・・」
「え?イオリス、どういう事・・・?」
「いいから―――死にたくなかったら、さっさと逃げろッ!!!!」
急に強くなる口調にリルスはビクリとする。
しかし、彼女は瞬時に察知した。
イオリスの口調が強くなった理由は、怒りではない。
マトラン達を見てもわかるが、何か驚異が迫っている。
イオリスは、その驚異から自分を逃がそうとしてくれている。
イオリスの真意を理解し、彼に心配をさせまいとその場から離れ、リルスは走り出した。
走っている最中に、後ろを振り向く。
数匹の怪物達。
まるでこの世のものとも思えないような、恐ろしい姿。
その迫る怪物達に、武器を持って構えているイオリス。
怪物が飛び掛かり、イオリスにそのキバが届かんという所だった。
イオリスの武器が光り、怪物を寸断する。
リルスは、その光景を見た瞬間に悟った。
イオリスはスピリットである、と。
しかし、彼に対する恐怖感は無い。
例えスピリットだとしても、彼は自分を救おうとしてくれた親友である事には変わりなかったから。
次第に遠くなっていく親友の戦う姿に涙を零し、
リルスは走り続けた。
死が怖いからじゃない。
親友を見捨てたわけじゃない。
親友が、私に「生きろ」と言ってくれたから。
それだけ。
怪物を次々に斬り捨てるイオリス。
少しでも時間を稼いで、リルスが逃げれ時間を作る事しか頭に無かった。
「すまねぇ、遅れた!」
ロサダ達が全速力で走ってくる。
そして怪物達とすれ違いざまに、それぞれが怪物に思いっきり斬撃を加え、斬り倒す。
「・・・待ってたぜ、相棒」
イオリスがロサダに話し掛け、それに応えるようにロサダが武器をカチャリと構える。
イオリスも武器を振りかざし、怪物と戦う。
「きゃあぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!」
マトラン達の悲鳴は、さっきから響いていた。
しかし、その声だけは、イオリスの耳にしっかりと聞こえた。
だが、その瞬間にイオリスは背筋が凍った。
―――――リルス・・・!!!――――――
その時、イオリスは隙だらけだった。
怪物がすかさずイオリスに襲いかかる。
鈍い金属音のぶつかる音が響く。
レルクがナイフで怪物の攻撃を受け止めていた。
「・・・いいぜ、イオリス」
「・・・・え・・・」
レルクの言葉に、皆が笑って頷く。
武器を振りながらではあったが。
「・・・・・行ってやれ。
みんな、お前に大切な人が出来た事くらい、お前が毎日外出するのを見て見て解ってたんだよ♪」
不覚にも、目頭が熱くなる。
「・・・すまん、すぐ戻る!!!!!!」と言い残し、
イオリスはロサダ達と怪物達から戦線離脱し、走り出した。
――――今、行くぞ・・・!!!!!!!――――
「親友」完