「・・・・・・ここは・・・・?」


ファイナは目を覚ました。
しかし、自分が何処にいるのか分かっていない。
パッと見た感じ、誰かの家の中のようだが・・・・・。

「お目覚めかい?ここは空き家だよ。」

聞き覚えのある声に、彼女はとっさに振り向く。


あの男だった。
しかし、男の持っている物が薙刀ではなく
暖めたミルクだという事が、彼女の頭を一瞬混乱させた。

側の椅子に腰掛ける男。
ミルクを手渡し、「飲みな」と一言。
しかし、未だこの男を警戒している彼女は、口にしようとしない。


「まぁ、そんな警戒するのはトーアとして適切な判断だぜ、お嬢ちゃん。」
男は、自分の分のホットミルクをすする。

未だ状況が良く分かっていないファイナは、男に声を掛ける。

「あの・・・・。」
「ん?どうした?」


「何故、貴方は私を殺さなかったの・・・・?」








沈黙。
ファイナにとっては、苦痛とも言える沈黙だった。

しかしその沈黙を男が破った。







「あっはっはっは!」
急に大声で笑い出す男。
「何が可笑しいの!」
大真面目で聞いてみた質問のアンサーがこれでは怒りもする。



「あのね、お嬢ちゃん・・・・。
 
   俺は傭兵だよ?誰からも、アンタを殺せとは命令されていないぜ?

「え・・・・だって・・・私から見たら貴方の目はどう見ても・・・・」
「殺意が込められていた目だってかい?
  そりゃあ傭兵だもん、長年殺意を込めた目をしてればそういう演技も出来るのよ♪」

あっけらかんとした答えを口にしたあと、ホットミルクを口にする男。

「・・・・・私、貴方に遊ばれてたの?」
少しガッカリ気味に、それでいて少し安心気味に聞くファイナ。

その問いに即答した男の答えはこうだった。




「うん、見事にね♪」


「・・・・・クスッ」
急にファイナが笑い出した。
それに乗じて爆笑する男。

「貴方は笑う権利無いッ!」
少し怒り気味に注意されても、何処吹く風というように爆笑を止めない男。













その数秒後には、男の頬に彼女のビンタが炸裂していた。
しかし、そのビンタされた瞬間、そしてその後も彼の下品な爆笑は続いてしまっていた。








それから数日後、ファイナがアリャ・ト村のツラガに報告した事により、
ロサダには村から報奨金が与えられた。
本人曰く、金額は「悪くない」そうだ。


しかし、報告した時にツラガから受けた言葉は、ファイナの心に深く突き刺さっていた。



ツラガ「お前はトーアであろう。
       トーアなら自分でマトランを護って見せよ!」



あの時の絶望感が再び襲ってきた。
放心状態で家に閉じこもるファイナ。

しかし、その沈黙をあの男では無くツラガの使いが破った。








「ツラガがお話が有るそうです。ツラガの家にご足労願います。」


半ば魂が抜けている状態で、思い足取りでツラガの家に向かうファイナ。
そして、その後ろをあの赤い傭兵が付いていった。



ツラガの家。そこでファイナはツラガから信じられぬような命令を受ける。









ツラガ「ファイナ。お前はもう用済みだ。
        ・・・・・・この村から即刻立ち去れ!!!!」

















自分は故郷を失ってしまった。

帰るべき所さえ追放された。

もう、私に居場所は無い。




家を出る時、カーテに会った。
カーテから「元気でね・・・・。」と最後の挨拶を貰った。
しかし、言い忘れなのか彼女は「行かないで」とは言ってくれなかった。



仕方無い・・・。これも報いなんだ・・・・・。

彼女は、自分の犯した過ちを認めながら歩いた。
村の入り口でもあり出口でもある門が近付いてくる。




そこで彼女は、ある人物を見つけた。












あの男だった。
腕組みをして、門の柱に寄りかかっている。

「・・・・・何か用?」

気の抜けた声で声を掛けるファイナ。



男の返答は、

「この村を追放されたんだってな。ご愁傷様だ。」


「・・・・・大きなお世話。」
怒りも出来ていないようだった。相変わらず目が死んでいる。



「・・・・・・じゃな。」



ファイナの目の前を通り過ぎていく男。

その男の背中を、生気の無い目で寂しげにじっと見つめるファイナ。
































男が急に振り返る。



「・・・・・・・・付いてくるか?」
















どうせ身寄りがないんだ。
この男と一緒に旅をしてみるのも楽しいかもね・・・・。

























彼女は、少し軽くなった足取りで、“
ロサダ”の後を追った。













「旅立」終