第二十九話「」


あれから二日。
ロサダ達は、アルバ・カテルの宿泊専用部屋に居た。
未だ、身体に特に変化は無い。


二日前。
ノックスが投与装置のスイッチを入れ、ロサダ達はD細胞をその身に宿した。




全員がその時の感覚を覚えている。
あまり苦痛は無かったが、疲れている時に横になった時の感覚のように、どこか心地よい。
そしてその心地よさの中、全員が眠りに落ちていった。


そして、次にロサダ達が目を覚ましたのは、この部屋のベッドの上だった。
しかしノックス一人で五人を運んできたとは考え難い。
おそらくフォンスでも呼んでくれたのであろう。


そして早速、アルバ・カテルの訓練室にてD細胞の力を試した。
しかし、全員のパンチや斬撃などは特に変わらず、いつも通りだった。








「・・・・ま、今のところは身体に悪い変化は起こってないな」





その言葉をエンジンにして、五人は再びアルバ・カテル本部を後にした。
まだD細胞の力は覚醒していないという事なのは解っているが、
とりあえず今のままでも村を護る事ぐらいなら出来る。
もしかしたらダーカーと戦ったりしている間に覚醒、という事もあり得るかもしれない。




アルバ・カテル本部が存在しているのは、永久凍土が地を覆い、一年中雪は降り積もっているニンギル地方。
もちろんニンギル地方にも「クシャ・ロイド村」という名の村が存在している。
ロサダ達は、まずそこへ向かう事にした。



そして、ダーカー事件がまだ終結していない事に対策を練ったアルバ・カテルは、
ロサダ達五人の他にも複数の対ダーカー用小隊を大陸の村々に派遣した。
これで、少し、いや大分ダーカー退治が捗る。







それから数時間。
五人はニンギル地方のほぼ中央に位置する村、前述のクシャ・ロイド村に居た。
寒いのが苦手なファイナも、ダーカー殲滅の為だという事で我慢しているようだった。
イオリスがさっきからそんな彼女を心配している。


やはりこの村にも、数日前数匹のダーカーが襲来したらしい。その時はロサダ以外の小隊が退治したらしい。
ロサダ達は怪しまれ、村を通してもらえなかったが、
ノックスから貰っておいたアルバ・カテルのメンバーの証明書を見せた途端に通してくれた。
ヴェイルは少々気まずい様子だったが。



ロサダ達に用意された部屋は、中々小綺麗なところだった。
流石にアルバ・カテルの宿泊室には及ばないが、一般住民からしたら立派すぎる程。


村にダーカーが出現したら、すぐに現場へ向かう。
そう確かめあった後、五人はそれぞれの行動を始める。


ロサダは部屋に残りヴェイルとチェスのようなゲームをしている。
ファイナは村の大通りで、何か美味しいものでも買ってくるらしい。
レルクは、ロサダとヴェイルの対局を見ている。






















イオリスは、観光でもしてくると言って、部屋を出て行った。









イオリスは、大通りとは少し離れた小道を歩いていた。
観光は言うものの、イオリスは施設観光より自然観光が好きである。
白い、無限に広がっていそうな平原を見ながら、さっき立ち寄って買ったアラードをすする。










・・・・?
雪の積もった丘に、少女が独り居る。
イオリス同様に、どこか遠くの景色を見つめているようだ。

その少女に、何の気無しに惹かれるように話し掛けるイオリス。
自分自身、この時の行動が自分で理解できなかった。













「・・・見かけない顔だね。観光客・・・なのかな?」
警戒もせずに、イオリスに話し掛ける少女。

「・・・・・・・まぁ、そんなところだな」
少女同様、遠い空を眺めて返すイオリス。
お互い、相手の顔を見ずに返事をしている所がウマが合うらしい。




「・・・・いいね。空って」
「・・・・ん?」


「私ね。時々考えるんだ。
 あの遠い空の向こうに、一体何が存在しているんだろう、って―――――」



イオリスは酷く驚いた。
この少女の思想や考え方が、非常に自分に近かったから。
自分が変わり者なのは自覚していたが、自分に似たような人間がいる事は予想できなかった。












「・・・・ああ。俺もいつか“空の向こうに存在しているモノ”
とやらを、見てみたいもんだな」




少し微笑んで、遠い空を見ながら呟く。
かすかに目を横に動かし、少女の様子をうかがってみる。





















少女は、イオリスの顔を見て、かすかに嬉しそうに微笑んでいた。


そして。
その笑みを返すように、イオリスも静かに、だけど優しく微笑みかけた。



















「少女」完