第二十八話「」


ノックスはその事を語る事を「決意」し、
そして、口を開いた。






「・・・今から10年前。
 “大戦”
という名の、大陸至上最悪の事件が起きた――――」







まず、話は10年以上前に遡る。
その頃存在していたアルバ・カテルは、現在のものと殆ど変わらない組織だった。
メンバー達は日々訓練と任務に明け暮れ、そのおかげで大陸は平和な毎日を送っていた。

その生活していた人々の中には、一体どんな人がいただろうか。
皆それぞれの「夢」を持ち、「希望」を持ち、
そしてその夢に向かって、皆が全力で生きていた。



毎日が、楽しかった。
日常が、輝いていた。
明日が、待ち遠しかった。







でも。
ある時、その希望は一瞬で消えた。











「アルバ・カテルを滅ぼし、この大陸を支配する」









そんな馬鹿な考えの下、密かに反逆を企てた集団が居た。
彼らはそう決意したその日から、日々命を落としかねないような過酷な訓練を積んでいた。
その訓練の過酷さは、アルバ・カテルの訓練など足下にも及ばないようなものだった。
そんな地獄のような日々を何年も、何年もひたすらに繰り返して、「彼ら」は生きてきた。







・・・組織名「ネウパ・ロウズ」。
元々はアルバ・カテルが所有する「最終兵器」とも呼ばれた特殊部隊だった。
この組織には、普通のアルバ・カテルのメンバーよりも戦闘技術がズバ抜けている者のみが所属していた。

その為、彼らには武器や人材も豊富にあった。



多分、それが理由だっただからだ。
彼らが反逆したのは。










彼らは「その日」まで、命を捨ててまで訓練に打ち込んできた。
勿論、その中で本当に命を落とした奴も居た。





多分、中には反逆を望まなかった奴もいただろう。

だが、普通に考えてそんな奴は真っ先に殺されていた可能性が高かった。
実際、この大戦が終わった後にアルバ・カテルが奴らの基地を調査した。

その結果、武器及び鎧・防具等を全て奪われ、拷問死した死体が複数発見された。
おそらく計画に犯行する者を、見せしめとして始末したのであろう。






そして。
ついにその日は来た。








アルバ・カテル非常連絡受理部に、一通の通報がとある村からあった。
平和ボケしすぎていた当時の大陸にとって、形だけの存在でしかなかったその機関が、初めて役に立った事件だった。





「・・・・・た・・・・たすけ・・・・・」
その直後。
何かの爆発音のような音と、何か汁気のあるものが破裂したような、湿り気のある破裂音。



直後に異常事態を察した機関は、すぐさまアルバ・カテルの総司令官に連絡。
総司令官から「ネウパ・ロウズ」のメンバーを数人派遣せよとの命令を受け、すぐさまネウパ・ロウズが出動した。


しかし。
この事件の黒幕は、ネウパ・ロウズそのもの。

彼らの最初の計画は、メンバーの大半は通常通りに基地にて待機。
その間に、30人程の少人数で構成された「襲撃班」が村を襲撃。
そして通報を受けてネウパ・ロウズが出動した時、密かに「襲撃班」に連絡。

そして、出動したメンバー達が現場に到着した時には、
「襲撃班」は既に撤退している。これが最初の計画。



実際の現場となった村は壊滅し、村人は殆どが惨殺されるという惨劇となっていた。









アルバ・カテル本部はすぐに今回の事件を調査に取り組んだ。
こんな事は、平和だった大陸にとっては前代未聞だった。
当然、今回の惨劇が大陸のマトラン達にも衝撃を与えた事は言うまでもなく、
大陸は恐怖の渦に巻き込まれた。


アルバ・カテルは懸命に事件を調査した。
今まであり得なかったとすらされていた、こんな事件が起こったのだから。




当然。
その間、アルバ・カテルは呆れる程に隙だらけだった。


第二の事件を防ぐ警戒を怠っていたという訳ではない。
犯人グループの捜査を怠っていたという訳でもない。





アルバ・カテルは、「内乱」を見抜けなかった。






とある日、今度はネウパ・ロウズのメンバーが全員失踪。
度重なるいきなりの急展開に、アルバ・カテルの反応が遅れていた感は否めなかった。
アルバ・カテルは「事件捜査本部」と「ネウパ・ロウズ捜索本部」を設置し
、それぞれの問題に取り組んだ。














しかし。
時は、既に遅かった。

















隙だらけのアルバ・カテルに、恐怖に怯えて均整が保たれていない村々。
彼らにとっては、絶好のチャンスだった。



















その日。
いきなり、一つの村がまた壊滅した。
生き残ったマトラン達も、仲間や家族を失い奈落の底に堕ちていった。






しかし、今度ばかりはそれでは止まらなかった。





「彼ら」は次々と村を壊滅に追い込み、住民を大量惨殺。
あるいは喰った奴もいたかもしれない。

事態の重大さに気付いたアルバ・カテルは、アルバ・カテル第分隊「レ・クゴキス」と第九分隊「クコ・クハジザ」、
第十分隊「フギ・ガフビラ」を派遣。




しかし。
彼らは、結局帰ってくる事はなかった。







そして、「彼ら」により大陸に存在する村は次々と廃墟と化していった。
屍のみが残り、辺りには血の匂いが漂い、恐怖のみが大陸を支配。
マトラン達は逃げまどい、血の匂いでの吐き気を必死に抑え、少しでも生き延びようとした。


しかし。
彼らに見つかり、無惨な殺され方をしたマトランも珍しくはなかった。
戦後、腸を引きずり出され、足と手をもぎ取られて放置された死体が大量に回収されたのだから。






そして。
アルバ・カテルの総司令官は、「彼ら」と交戦する事を決意し、全面戦争に突入。
残っているのは、

第一分隊ズキ・ライサル」、
第二分隊「グ・ショウサー」、
第三分隊「ゲ・スカイル」、
第四分隊「ファ・グライガ」、
第五分隊「ザ・グルルド」、
第六分隊「エ・ルドルザ」、
第七分隊「デグ・キカルナ」の
七分隊。



アルバ・カテル軍とネウパ・ロウズ軍が真っ正面から遂に衝突した。
はっきり言って、そこは地獄絵図だった。
どんな風景だったのかは、己ずと想像はつくだろう。





























































そして、全面戦争開始から二ヶ月後。
ネウパ・ロウズ軍は、アルバ・カテル軍に殲滅された。


ある意味、残された者達の方が不幸だったかもしれなかった。
戦後、未だ死体が発見されていない者を含め、自殺した者も多かった。


負傷者三万人以上、死者は集計不可能。
大量の犠牲の上に、この大戦はようやく幕を閉じたのだった。


















そして、今も。
最後の戦いの舞台となったアラ・クラ村の残骸が、アルバ・カテル本部近くの山奥にひっそりと残っている。



































話し終えたノックスは、気付けば肩が項垂れていた。
他のみんなを見ても、皆哀しい表情をしていた。


ヴェイルは、深い後悔の念を抱いている。
「聞かなければ良かった」――――と。




「・・・・・・で、その大戦とD細胞がどんな関係あるっていうんだ」
イオリスが未だ低い声で言う。




「・・・・・さっきも言ったけど、
 アルバ・カテルはネウパ・ロウズ軍と全面戦争を行ったのは知ってるよな」

「・・・ああ」







「・・・・・その全面戦争に向けて、兵士の戦闘能力を極限に向上させる
ある代物が開発された。
 
未だ未知数な面が多いため、“
ソレ”は希望者のみにだけ投与される事となったんだ。


 



 ・・・・ここまで言えば、皆分かるよな」



































皆が、これでやっと解った。

「D細胞が、何の為に造られたのか」を。






そう。
それこそが「真実」。













「・・・・・ならば」



ロサダがさっきとは打って変わった明るい口調で話す。










「元々D細胞はトーアの戦闘能力を開花させる為の代物だった。
 これでもう、不安も吹き飛んだぜ、師匠!」












その言葉に皆が頷く。
D細胞を使用して変身するのは
「怪物」じゃない。




それは、もの凄く簡単に言えば
「強化人間」
この事が、皆のD細胞投与への恐怖を打ち消したのだ。










「・・・・・真っ当な理由で安心したぜ」
イオリスが微笑んで呟いた。









そしてノックスも笑うと、




















































投与装置のスイッチを入れた。














「真実」完