第二十七章「」




「・・・ここだよ」





白い部屋の真ん中に、箱のような機械が置かれている。
誰もがその機械の正体を一瞬で察知した。



「この機械の名は、『D-34595』

 さっきも言ったとおり、D細胞投与用の機械だ。
 で、ロサダ。お前本当に―――」


「おやぁ?
 師匠はしつこく聞くほどねちっこい男だったかな?
 俺の記憶では確かサッパリしたハンサムミドルだったような・・」



ロサダの屈託のない笑顔を見て。
ノックスは「・・・
わかったよ」と再び微笑い、装置のスイッチを入れた。








「おい、ちょっと待ってくれるか」








イオリスが鋭い目でノックスに詰め寄る。
「?」といわんばかりの顔をして振り返るノックス。








「・・・・あのな。
 さっきまでは気付かなかったんだがな。



 なんで敵勢力の切り札の筈のD細胞を、アルバ・カテルが持ってるんだい?









その言葉に、ハッと我に帰る一同。
確かにそうだ。何故、アルバ・カテルが?







「・・・・ふぅ。やっぱり気付かれたか」

ノックスが肩をすぼめてため息をつく。
その後、少し鬱気味に顔を上げ、再びため息。







「・・・・いいよ。ここまで聞かれたら教えてあげよう。
 ただし、この事は口外禁止だぞ?
 ここまで聞かれたから教えるのであって、本来はアンタらが知らなくて良いことだったんだからな」





「・・・・まずその事を説明するには、
 とある事件の事を話さなければならないな・・・」





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

イオリスが呆れたような顔をしている。
イオリス以外の全員も、呆れては居ないが、訳が分からないような表情だった。








そのまま言葉をつなげるノックス。














「・・・みんな、今から10年前に起きた大戦の事は知ってるよな」












その言葉に、皆が驚愕し、そして頷く。
まさかここで、その言葉を聞く事になろうなんて、誰が予想し得ただろうか。







ファイナやイオリス、レルクは覚えていた。
その大戦時、村の仲間や住民が死んでいくのを。
辺りに常に漂っていた、血の匂いを。











しかしロサダだけが頷かなかった。








その時のロサダの眼を、ファイナはしっかりと見た。

なんて、遠い目。
死んだ魚のような眼をして。
ファイナ達ではなく、明らかに遠い何処かを見て。












そんなロサダの様子を、何処か過剰とも言えるように心配するノックス。
しかしロサダが反応しない。





「おい、大丈夫かロサダ!おい!」




大声を掛けられ、ハッと我に返るロサダ。
息が荒いまま、「・・・だ、大丈夫。すまないな、心配かけて」と呟く。














「・・・・・すみません、私はその戦争についての知識は・・・」




ヴェイルがノックスに言う。
それはそうだ。何故ならヴェイルはダーカーである。
ダーカー(人によって“造られた”
存在)である以上、彼が10年前に存在していたのかすら怪しい。





「・・・アンタ、知らないのか?あの大戦」
意外、というような顔で聞かれるヴェイル。





「・・・・・・所詮私はダーカーですから」





どこか哀しい微笑を浮かべて答えるヴェイル。
顔を上げれば、ノックスが更にとんでもない顔をしていた。



「・・・・何の冗談だ、アンタ?」
ノックスが少し笑いながら更に聞き返す。






しかし直後に、それは何の冗談でも無かった事に気付く。
一瞬の黄色い閃光の後、青年の姿は、紅き眼を持つ龍のような姿へと変わっていた。








「・・・・・冗談では無いという事が解って頂けましたね?」








そう言うと、再びトーアの姿に戻るヴェイル。
ノックスは剣を構えかけていたが、ロサダに止められ、
イオリスに「コイツはダーカーだが、俺達の大切な仲間だ」と言われた。

そして四人がヴェイルに全く警戒していない。
お互いを信頼していると納得し、ノックスは剣を置いた。








そして、ノックスは改めて言う。









「・・・大戦っていうのはな、
 昔起こった・・・いわゆる戦争だよ。
 いや、厳密には内乱って言ったほうが近いかもしれないが、まぁ大戦と覚えてくれ」


そんな前置きを言った後、一旦息を吐き、そして語り
出した。






























 「・・・・『大戦』

  ジャー・アラル大陸最悪の事件だった。
 
  この戦争は負傷者三万人以上、死者は集計不可能でその他村及び集落が30近く消えた。
  今でもこの戦争の事が記憶に焼き付いている者はこの大陸に多い・・・」

























そして、ノックスは語り出した。








今から10年前に起こった
惨劇を。

今から10年前に起こった
悲劇を。

今から10年前に起こった
殺戮を。









それから。
ノックスは、語り始めた。









そして。
ヴェイルは、今まで一番、後悔した。






































―――――――“聞かなければ、良かった”―――――――











「大戦」完