第二十六話「」

暗い廊下を、とにかく前へ前へと進む五人。
一人でもはぐれないようにそれぞれが誰かの腕を掴んでいる。



しばらくして、前方に青い光が見えた。
壁にブルーライトが仄かにゆらめいている。
そしてその向こうに、ノックスが立っていた。



ノックスの居るところまで進む五人。
するとノックスはゆっくりと振り向き、そして静かな口調で言った。





「・・・・この扉の奥の事は、口外禁止だぞ。
 アンタらを信用してここまで連れてきたんだんだからさ・・・」


今気付いた。
暗くてよく分からなかったが、ノックスの後ろに鋼鉄製の扉がある。

その扉にも、やはりあのマークが刻まれている。





「・・・・一体、この先に何があるというんだ、師匠」

ロサダが重苦しい口調でノックスに聞く。






「・・・・いいだろう。答えてあげよう」











そう言うとノックスは、その鋼鉄製の扉の横にある機械に目を落とす。
その機械に、自身の指を差し込む。
そしてピー・・・という音が鳴り、「コンプリート」という電子音声と共にランプが赤から緑に点滅する。

それと同時に、今度はその横にスコープのようなものが出てくる。
ノックスはそのスコープに片目をつける。
再びピー・・・という音が響き、二度目の「コンプリート」が発声される。








「この先にあるのは―――――」








扉がガチャリという音を5,6回立て、ゆっくりと開いていく。























「・・・アルバ・カテルの、最高機密だ」








・・・・・。
なんだ、この部屋は。








壁には、さっきのマークの形をしたライトと、その横の小さな緑のランプが光り輝いている。
その奥には――――





「・・・・・・・・・・・・!?」






人間は。
何か未知なるものをみた時、それが「何であるか」を認識してこそ冷静な判断、行動を取れる。
五人は、「それ」が何なのか、数秒間認識できなかった。



いや。
認識したくなかっただけなのかも知れない。










紫色の液体の中に、誰かが浸かっている。
彼の足は獣ように変化し、肩には不自然な色合いの、水色の腫瘍のようなものができている。
更に彼の顔には、あちこちにチューブが接続されている。

そして。

その目には、もう光は宿っては居なかった。


「・・・・ぁ・・・・」


ファイナが小さなうめき声を残し、倒れる。
ヴェイルが必死に名前を呼ぶが、返答すらしない。


「・・・大丈夫。気絶しているだけだよ」
ノックスがファイナの様子を見、判断した。







「・・・さて、みんなもう落ち着いたか?」とノックス。
未だ信じられない事だらけだが、とりあえず最初よりは落ち着いている。




ロサダが立ち上がり、水槽の中の男に近付く。
明らかに、この男の肉体は唯の抜け殻だった。
動かないとか、そういう問題じゃない。第六感的なもので、皆がこの男が死んでいる事を悟っていた。




「・・・・で、あの男は一体なんだ?」
イオリスが、鋭い目つきで疑うように聞く。


「・・・あれこそが、D細胞投与時、失敗したヤツの成れの果てだよ」















・・・・・?
「成れの果て」?












話がつかめない。
皆がキョトンとした顔つきの中、ロサダが「詳しく説明してくれないか、師匠」と聞く。



ため息をつき。
ノックスは、その重い口を開いた。










「・・・・この男も、アンタらと同じように正義感の強いヤツだったんだよ。
 失踪事件
―ダーカー事件―が起こり始めた頃、コイツはダーカーと戦って、そして負けた。
 アンタらのように、この男は自分自身もダーカー化すれば勝てると思ったらしい。

 そしてコイツは、自らにD細胞を投与しようとした。
 ・・・だが」







皆がそこで唾を飲み込む。
そして、ノックスは続けた。

























・・・・D細胞を投与している最中に、投与用の機械が故障。
 結果、その衝撃で・・・コイツは、死んだんだ








「・・・・・・え」




ファイナが無表情にも近い顔で思わず聞き返す。









「・・・・アンタらがD細胞を投与するにはその機械が必要だ。
 一応その機械は修理されたし、安全な筈だ。
 だが、もちろん今回は故障しないという保証は無いぜ」





















沈黙。
ファイナは口元を押さえて黙り込み、レルクは苦虫を噛み潰したような顔をして。
ヴェイルは相変わらず無表情だったが、明らかに俯いていた。
イオリスはというと、どこか哀しさを漂わせるような眼をしている。
























「・・・・・・・・それがなんだよ、師匠」









ノックスが驚いたようにロサダの方を見る。
見れば、ロサダが口元を歪めて笑っていた。


「俺はそれでもやるよ。
 アイツらに『アンタらから大陸を護ってみせる』
とかクサいセリフまでかましちまったからな。
 それに――――

















・・・・・・・少し、アイツをガッカリさせちまったみてぇだからな」











ノックスが、さっきよりも更に酷く驚いたような顔をしている。
何故なら。



見れば、ロサダだけでなく、他の四人も元気づけられたように笑っていたから。








「・・・・よし」



諦めたように軽く笑って。
ノックスは五人を更に奥の部屋へと案内した。


















「亡骸」完