暗い廊下を、とにかく前へ前へと進む五人。
一人でもはぐれないようにそれぞれが誰かの腕を掴んでいる。
しばらくして、前方に青い光が見えた。
壁にブルーライトが仄かにゆらめいている。
そしてその向こうに、ノックスが立っていた。
ノックスの居るところまで進む五人。
するとノックスはゆっくりと振り向き、そして静かな口調で言った。
「・・・・この扉の奥の事は、口外禁止だぞ。
アンタらを信用してここまで連れてきたんだんだからさ・・・」
今気付いた。
暗くてよく分からなかったが、ノックスの後ろに鋼鉄製の扉がある。
その扉にも、やはりあのマークが刻まれている。
「・・・・一体、この先に何があるというんだ、師匠」
ロサダが重苦しい口調でノックスに聞く。
「・・・・いいだろう。答えてあげよう」
そう言うとノックスは、その鋼鉄製の扉の横にある機械に目を落とす。
その機械に、自身の指を差し込む。
そしてピー・・・という音が鳴り、「コンプリート」という電子音声と共にランプが赤から緑に点滅する。
それと同時に、今度はその横にスコープのようなものが出てくる。
ノックスはそのスコープに片目をつける。
再びピー・・・という音が響き、二度目の「コンプリート」が発声される。
「この先にあるのは―――――」
扉がガチャリという音を5,6回立て、ゆっくりと開いていく。
「・・・アルバ・カテルの、最高機密だ」
・・・・・。
なんだ、この部屋は。
壁には、さっきのマークの形をしたライトと、その横の小さな緑のランプが光り輝いている。
その奥には――――
「・・・・・・・・・・・・!?」
人間は。
何か未知なるものをみた時、それが「何であるか」を認識してこそ冷静な判断、行動を取れる。
五人は、「それ」が何なのか、数秒間認識できなかった。
いや。
認識したくなかっただけなのかも知れない。
紫色の液体の中に、誰かが浸かっている。
彼の足は獣ように変化し、肩には不自然な色合いの、水色の腫瘍のようなものができている。
更に彼の顔には、あちこちにチューブが接続されている。
そして。
その目には、もう光は宿っては居なかった。
「・・・・ぁ・・・・」
ファイナが小さなうめき声を残し、倒れる。
ヴェイルが必死に名前を呼ぶが、返答すらしない。
「・・・大丈夫。気絶しているだけだよ」
ノックスがファイナの様子を見、判断した。
「・・・さて、みんなもう落ち着いたか?」とノックス。
未だ信じられない事だらけだが、とりあえず最初よりは落ち着いている。
ロサダが立ち上がり、水槽の中の男に近付く。
明らかに、この男の肉体は唯の抜け殻だった。
動かないとか、そういう問題じゃない。第六感的なもので、皆がこの男が死んでいる事を悟っていた。
「・・・・で、あの男は一体なんだ?」
イオリスが、鋭い目つきで疑うように聞く。
「・・・あれこそが、D細胞投与時、失敗したヤツの成れの果てだよ」
・・・・・?
「成れの果て」?
話がつかめない。
皆がキョトンとした顔つきの中、ロサダが「詳しく説明してくれないか、師匠」と聞く。
ため息をつき。
ノックスは、その重い口を開いた。
「・・・・この男も、アンタらと同じように正義感の強いヤツだったんだよ。
失踪事件―ダーカー事件―が起こり始めた頃、コイツはダーカーと戦って、そして負けた。
アンタらのように、この男は自分自身もダーカー化すれば勝てると思ったらしい。
そしてコイツは、自らにD細胞を投与しようとした。
・・・だが」
皆がそこで唾を飲み込む。
そして、ノックスは続けた。
「・・・・D細胞を投与している最中に、投与用の機械が故障。
結果、その衝撃で・・・コイツは、死んだんだ」
「・・・・・・え」
ファイナが無表情にも近い顔で思わず聞き返す。
「・・・・アンタらがD細胞を投与するにはその機械が必要だ。
一応その機械は修理されたし、安全な筈だ。
だが、もちろん今回は故障しないという保証は無いぜ」
沈黙。
ファイナは口元を押さえて黙り込み、レルクは苦虫を噛み潰したような顔をして。
ヴェイルは相変わらず無表情だったが、明らかに俯いていた。
イオリスはというと、どこか哀しさを漂わせるような眼をしている。
「・・・・・・・・それがなんだよ、師匠」
ノックスが驚いたようにロサダの方を見る。
見れば、ロサダが口元を歪めて笑っていた。
「俺はそれでもやるよ。
アイツらに『アンタらから大陸を護ってみせる』とかクサいセリフまでかましちまったからな。
それに――――
・・・・・・・少し、アイツをガッカリさせちまったみてぇだからな」
ノックスが、さっきよりも更に酷く驚いたような顔をしている。
何故なら。
見れば、ロサダだけでなく、他の四人も元気づけられたように笑っていたから。
「・・・・よし」
諦めたように軽く笑って。
ノックスは五人を更に奥の部屋へと案内した。
「亡骸」完