ロサダ達がボロボロの状態で本部に帰ってきたのは、それから数時間後の事だった。
たまたま入り口にいたフォンスに「・・・何があったんですか!?」と心配されつつ、
ロサダ達はすぐさま医療室へ移動させられていった。
「・・・・うぐ・・・」
まだ痛むのか、ベッドの上で腹部を押さえて呻くヴェイル。
隣のベッドから、ファイナの心配そうな瞳がヴェイルを見つめている。
「・・・・・・・・で、何があったの?ロサダ君」
ザドヴァが優しく話し掛ける。
そこでロサダは全てを話した。
調査先の廃墟と化した村で、五人の敵と出会った事も。
その内、二人が「あの二人」だという事も。
その他にケイムという名の、恐ろしく強い男がいる事も。
その他二人は龍のような顔をした詳細不明の男だという事も。何もかも全て。
「・・・・そうか・・・・あの二人まで裏切ったのかい・・・」
ザドヴァが哀しそうな眼をして、寂しそうな微笑を浮かべてため息をつく。
「・・・一人は見覚えがあったよ。あれは絶対にアミクスさんだった。けど・・・」
そこで言葉を詰まらすファイナ。
皆が視線で「・・・けど、何?」と言っている。
「・・・・ロサダ、もう一人・・・私を一撃で倒したあの橙色の男がいたでしょ?
ロサダはあの人の事を知っているみたいだったけど、あれは誰だったの・・?」
あの男か。
あの橙色に輝く小振りな矛を振るう、あの男。
「・・・・おそらく、彼はエクシムだろうね」
ザドヴァが、その威厳のある姿に見合わぬ例の口調で話す。
「・・・エクシム?エクシムって誰だよ?」
イオリスが聞き返す。
本心では、「もったいぶらずにどんなヤツかを教えてくれ」とでも言いたいのだろう。
そしてザドヴァが話し始めた。
「・・・・エクシム。アルバ・カテル、『烈鬼』のエクシムだ。」
「・・・・ちょっと待て。・・・“アルバ・カテル”・・・・?」
「・・・うん」
「・・・・・・・・・・」
しばしの沈黙。
「・・・うん」じゃねぇよ。
「・・・うん」じゃねぇよ、おい。
「・・・・アミクスの野郎と共々、そいつもアルバ・カテルの裏切り者かよ」
イオリスが、診察に来た看護婦にアラードを一杯頼みながら呟く。
だれだってそう思う。
大陸を支配、及び統治し、そして護っているアルバ・カテルの中から二人、裏切り者が出た。
もはや汚職事件どころの話ではない。
「あのエクシムが裏切ったって事は、何か大きな原因があったに違いないね。
とても優秀な戦士でもあったし、だけど日々の訓練を怠らなかった。
あともう少し訓練すれば、かなり強い戦力になれた程だった。
そして、『この大陸に何かあった時は、必ず自分が戦闘に立って戦う』と意気込んでたのに・・・」
ザドヴァが神妙な顔付きで言う。
彼のアルバ・カテルへの忠誠心と、大陸への故郷愛は高かったと誰もが予想できた。
ロサダも深い疑問を抱えているような顔をしている事が、その予想を確実にした。
じゃあ、何故?
何故、そこまでアルバ・カテルの優秀な戦士だったのに裏切った?
何故?
何故?
急に、壁から凄い音がした。
振り向けば、イオリスが壁に手を思いっきり叩き付けていた。
流石に壁は壊れていなかったが、少しへこんでいる。
「・・・・どいつもこいつも・・・仲間をいとも簡単に裏切りやがって・・・・・!!!!!」
その言葉が、イオリスの感情の全てを表していた。
もはや他の言葉すらいらなかった。
長い沈黙。
イオリスの雰囲気が、皆が言葉を発する事を許さないようだった。
ザドヴァは空気を読んでくれたのか、部屋から無言で出て行く。
「・・・・イオリスさん」
「・・・・うるさい!!!!」
思わず声の主を突き飛ばす。
振り向けば、ファイナだった。
「・・・!・・すまないな、少し頭に血が上ってて・・・」
一瞬驚いたファイナだったが、
すぐに彼がいつものイオリスに戻ったのを見て、微笑んだ。
「・・・・あ、うん。大丈夫。気にしないで」
ファイナの優しい笑みに、イオリスは己を思い出したようだった。
そして、ファイナに今運ばれてきたばかりのアラードを渡し、イオリスも無言で出て行った。
それから、数時間。
ロサダ達は宿泊用の部屋に居た。
「・・・・ロサダ。さっきからずっと何かを考えてるような顔をしてるな」
レルクがスバリと指摘してきた。
まさに図星。
レルクにここまで感づかれてしまっては、もう言い訳すらできない。
観念したような微笑を見せ、ロサダが口を開いた。
「・・・・・みんな。少し・・・聞いてくれるか」
どこか。
その声は落ち着いていたけど、どこか哀しげな感じだった。
今までのロサダからは、想像も出来なかった、とても哀しい口調。
その口調にビクリとし、皆が体勢を立て直す。
その瞬間、ロサダが口にした言葉に、全員が耳を疑った。
いや疑うどころか、耳がイカれているのではと思った。
「・・・・・俺さ」
「・・・・D細胞、使ってみる・・・」
「決断」完