第二十三話「進化」

ロサダ達がボロボロの状態で本部に帰ってきたのは、それから数時間後の事だった。
たまたま入り口にいたフォンスに「・・・何があったんですか!?」と心配されつつ、
ロサダ達はすぐさま医療室へ移動させられていった。



「・・・・うぐ・・・」
まだ痛むのか、ベッドの上で腹部を押さえて呻くヴェイル。
隣のベッドから、ファイナの心配そうな瞳がヴェイルを見つめている。


「・・・・・・・・で、何があったの?ロサダ君」
ザドヴァが優しく話し掛ける。






そこでロサダは全てを話した。


調査先の廃墟と化した村で、五人の敵と出会った事も。
その内、二人が「あの二人」だという事も。
その他にケイムという名の、恐ろしく強い男がいる事も。
その他二人は龍のような顔をした詳細不明の男だという事も。
何もかも全て。





「・・・・そうか・・・・あの二人まで裏切ったのかい・・・」
ザドヴァが哀しそうな眼をして、寂しそうな微笑を浮かべてため息をつく。


「・・・一人は見覚えがあったよ。あれは絶対にアミクスさんだった。けど・・・」
そこで言葉を詰まらすファイナ。
皆が視線で「・・・けど、何?」と言っている。



「・・・・ロサダ、もう一人・・・私を一撃で倒したあの橙色の男がいたでしょ?
 ロサダはあの人の事を知っているみたいだったけど、あれは誰だったの・・?」





あの男か。
あの橙色に輝く小振りな矛を振るう、あの男。






「・・・・おそらく、彼はエクシムだろうね」
ザドヴァが、その威厳のある姿に見合わぬ例の口調で話す。


「・・・エクシム?エクシムって誰だよ?」
イオリスが聞き返す。
本心では、「もったいぶらずにどんなヤツかを教えてくれ」とでも言いたいのだろう。



そしてザドヴァが話し始めた。





「・・・・エクシムアルバ・カテル、『烈鬼』
のエクシムだ。

「・・・・ちょっと待て。・・・“アルバ・カテル”
・・・・?」
「・・・うん」

「・・・・・・・・・・」




















しばしの沈黙。
「・・・うん」じゃねぇよ。
「・・・うん」じゃねぇよ、おい。






「・・・・アミクスの野郎と共々、そいつもアルバ・カテルの裏切り者かよ」
イオリスが、診察に来た看護婦にアラードを一杯頼みながら呟く。

だれだってそう思う。
大陸を支配、及び統治し、そして護っているアルバ・カテルの中から二人、裏切り者が出た。
もはや汚職事件どころの話ではない。



「あのエクシムが裏切ったって事は、何か大きな原因があったに違いないね。
 とても優秀な戦士でもあったし、だけど日々の訓練を怠らなかった。
 あともう少し訓練すれば、かなり強い戦力になれた程だった。
 そして、『この大陸に何かあった時は、必ず自分が戦闘に立って戦う
と意気込んでたのに・・・」


ザドヴァが神妙な顔付きで言う。

彼のアルバ・カテルへの忠誠心と、大陸への故郷愛は高かったと誰もが予想できた。
ロサダも深い疑問を抱えているような顔をしている事が、その予想を確実にした。



じゃあ、何故?
何故、そこまでアルバ・カテルの優秀な戦士だったのに裏切った?

何故?
何故?












急に、壁から凄い音がした。
振り向けば、イオリスが壁に手を思いっきり叩き付けていた。
流石に壁は壊れていなかったが、少しへこんでいる。






「・・・・どいつもこいつも・・・仲間をいとも簡単に裏切りやがって・・・・・
!!!!!」






その言葉が、イオリスの感情の全てを表していた。
もはや他の言葉すらいらなかった。







長い沈黙。
イオリスの雰囲気が、皆が言葉を発する事を許さないようだった。







ザドヴァは空気を読んでくれたのか、部屋から無言で出て行く。

「・・・・イオリスさん」
「・・・・うるさい!!!!」


思わず声の主を突き飛ばす。
振り向けば、ファイナだった。


「・・・!・・すまないな、少し頭に血が上ってて・・・」

一瞬驚いたファイナだったが、
すぐに彼がいつものイオリスに戻ったのを見て、微笑んだ。






「・・・・あ、うん。大丈夫。気にしないで」




ファイナの優しい笑みに、イオリスは己を思い出したようだった。
そして、ファイナに今運ばれてきたばかりのアラードを渡し、イオリスも無言で出て行った。













それから、数時間。
ロサダ達は宿泊用の部屋に居た。


「・・・・ロサダ。さっきからずっと何かを考えてるような顔をしてるな」
レルクがスバリと指摘してきた。
まさに図星。


レルクにここまで感づかれてしまっては、もう言い訳すらできない。
観念したような微笑を見せ、ロサダが口を開いた。








「・・・・・みんな。少し・・・聞いてくれるか」









どこか。
その声は落ち着いていたけど、どこか哀しげな感じだった。

今までのロサダからは、想像も出来なかった、とても哀しい口調。
その口調にビクリとし、皆が体勢を立て直す。





その瞬間、ロサダが口にした言葉に、全員が耳を疑った。
いや疑うどころか、耳がイカれているのではと思った。




















「・・・・・俺さ」





























「・・・・D細胞、使ってみる・・・」







「決断」完