第十九章「生還」

「行くよッ!!」



皆を足に吊り、そのまま急上昇するメイス。
プロペラが天井に激突するのではないかと思ったが、そんな不安は一気に砕かれた。

その強靱な馬力を持つプロペラは、猛回転で天井に穴を開け、そのまま一気に突き抜く。
天井は鋼鉄の壁と違い、脆かった。

カケラや火の粉が舞い上がる。
しかしその強靱な回転翼は、そんなものすら吹き飛ばしていく。













ふと目の前に、白い光が見えた。
その光目掛けて突っ込んでいく。










気が付けば、皆はアジトを抜け出していた。
はるか下には、真っ赤に燃えるアジト。
皆、下に降りもせずにその光景を目に焼き付けていた。

そしてその内、その建物は轟音と共に地面に崩れ、原型をとどめない姿になった。
赤々とした業火がメラメラと音を立てて燃え続け、これでもかというくらいに残骸にまとわりついていた。

そこでファイナは思った。
























あの男はこんな地獄のような場所で、誰にも人知れず死んでしまったのか。
ならば、私たちに出来る事はただ一つ――――――













「・・・・ただいま、とでも言っておくかな?」



イオリスのその言葉に、「・・・おかえり♪」と笑顔で返すザドヴァ。
「怪我とか無い?すぐに掛かり付けの医者を呼ぶけど・・・」というザドヴァの言葉に、
「たいしたこと無いけど、一応看て貰おうかな」と閃光を喰らった箇所を見せるレルク。

たいしたことないとはいえ、その傷は結構深い。
それでも脱出時にメイスの足に掴まっていられた事が不思議に思えるくらいだった。



「・・・・どうしたファイナ、悲しそうな顔して」
イオリスがファイナの表情を見て心配そうに伺う。














「あの人・・・・・可哀相だった。
 ・・・いつ、どこで道を踏み外しちゃったんだろうな、って・・・・・」



そう話すファイナの目からは涙が溢れていた。
怒りの涙じゃない。喜びの涙でもない。

―――それは、同情の涙だった。
ぽろぽろと、彼女の瞳から零れ出てくる。



「・・・あの人だって・・・最初は私たちと同じトーアだったんだよ・・?
                                なんで・・・・うっく・・・・・う・・・・」


次第にどんどん泣きじゃくっていく。
肩が意図せずに上がり、震える。
自分達を殺そうとした敵に同情して泣いているなんて、なんて滑稽な話だろうか。
そう自覚しているのに、涙が止まらなかった。


















誰かに抱きしめられた。
顔を見上げると、そこには―――――ヴェイル。





「・・・・・・泣かないでください。
    もう、いい。・・・・・・・・・・もう、いいんです・・・」






それで、悲しみを抑制していたタガが外れた。
溢れ出てくる涙で濡れた顔をヴェイルに押しつけ、ファイナは泣き続けた。











すっかり焼けて黒こげとなった廃墟。
あの男の亡骸は骨すら残らなかった。
ならば、せめてココを墓標にしようとでも思ったのだろうか。















その廃墟のすぐ近くに、木で出来た十字架が立てられていた。


















誰が作ったのか。そんな事は言うまでもないだろう。




















「生還」完