第十八話「烈戦」

「な・・・・!?」


皆が、衝撃と動揺を隠せなかった。
目の前で、ボスと思われる男が・・・変身し、自ら怪物と化した。
片腕からは真っ赤な炎が、メラメラと燃えさかっている。



「・・・・ヒヒヒヒヒヒ・・・・イヒヒヒヒ・・・・フハハヒャヒャヒャヒャ・・・!!」


もはや正気では無いのではと思わせる程、笑い狂う男。
さっきまでの切羽詰まったような表情など微塵も見せない。


辺りには火の粉が舞い、景色はゆらめきほのかな橙色で彩られる。
ロサダ達のいる長方形の足場の周りには溶岩が流れ、逃げる事は不可能だった。


ましてや、さっき破った扉なんぞ比べ物にならない程の分厚い壁が、四方を囲んでしまった上では。
もはやメイスの武器でも破れそうにない。





「・・・・ここまで来たんだ。戦(や)るしかねぇだろ?」


レルクが一歩進み出て、ナイフを構えながら言う。
皆、その言葉に無言で「YES」と返した。
そして返答代わりに、皆それぞれの武器を構える。











「・・・ククク。
 最強と化したこの俺相手に本気で言ってるのか、小僧?」
 




「本気じゃなかったら、
 アンタみたいな怪物には触りたくもねぇよ。
 相手してやるだけ感謝しな」












もはや、その言葉だけで十分だった。
宣戦布告としては申し分ない。



男が、その4本の足を蟲のように動かし、ロサダ達に突っ込んできた。
とっさに回避し、それぞれの場所に散る皆。
それぞれの武器を構えたまま、男の様子を見つつ攻撃のタイミングを探っている。



「セイヤアァッ!」



黄金色の閃光を纏った大鎌が、男の左腕目掛けて振り下ろされる。
しかし、
振り向きもしないまま回避する男。
そしてそのまま、強靱な尾でヴェイルを突き飛ばす。




「うぐおッ・・・!!」

溶岩に落下散歩前でなんとか止まるヴェイル。
溶岩はかなりなめらかに流れており、真っ赤に燃えている。
落ちたら、まず確実に命は無いだろう。




男が腕を伸ばしてファイナをむんずと鷲掴みにする。
必死でもがくファイナだが、力で敵うはずもない。

男はそのまま、ファイナを投げ飛ばした。







「きゃ・・・!!」








周りは溶岩。
もしノックスがファイナを受け止めていなかったら、ファイナは骨も残らず溶けていただろう。


「気を付けな。小娘さん」
ファイナを降ろし、そう言って剣を構えるノックス。



それが引き金となったのか、
ロサダとノックスが武器で男に斬りつける。

しかし男も、その強靱な爪で二人の斬撃を次々と受け止めていく。
鋭い金属音がキンキンと辺りに響き渡る。

そのスキをついて、レルクとフォンス、イオリスが男の背後に回り込み、一斉に武器を振り下ろす。
しかし、またしても尾に弾き飛ばされ、体勢を立て直す三人。


レルクが再び立ち上がり、ナイフで男に斬りかかる。
今度は尾の鞭を避け、男の背中に渾身の斬撃を加える。












その瞬間、男の首がぐるりと180度回転し、レルクの方を向いた。
そしてその瞬間、目から赤い閃光が走った。


とっさに避けるレルクだったが、閃光は彼の左足を貫いていた。
そのまま、足を押さえて倒れ込むレルク。


フォンスがS字型刀剣で、再びレルクに向けて放たれた赤
い閃光を跳ね返す。
跳ね返った閃光は、今度は男の胸を貫く。

その瞬間によろめき、唸り声をあげて体勢を崩す男。





「今だッ!!!!!!!」


ロサダにイオリス、フォンスにノックス、アミクスにヴェイルが男を囲む。
六人が同時に武器を静かに構える。
そして六人の武器が閃光を纏った、その瞬間―――――








それは、もはや美しいとも言える光景だった。
六人の武器から同時に光の軌道が溢れ、男に集中される。

6つのエレメンタル・パワーを一斉にブチ込まれ、男はもう半死半生のようだった。
皆がこの男を生け捕りにしようか殺すか一瞬だけ迷った。

しかし、その一瞬の間に、メイスが追い打ちをかけていた。



「死ねェェェェェッ!!!!!!!!」


非情ともとれるメイスの言葉が響き、男の体に集中砲火。
その勢いに押され、後方へ十数メートル吹っ飛ぶ男。


そして、それが最後だった。








男は派手に、紅色の液体に落下してしまったのだ。
男の体躯がその液体――溶岩――に触れた瞬間、ジュー・・・という音と共に、溶けた。
勿論、触れただけではない。男の体はその溶岩の中に沈んでしまった。



「うがああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!! 熱ィ! アヂイィィィ!!!」

男の悲痛な悲鳴が響く。
その間にも、男の体はみるみる溶け、どんどん溶岩の中へ沈んでいく。
そしてその度に、男は更に悲鳴を上げ続ける。

なんとか溶岩から脱出しようとするも、後の祭り。
足が溶けてしまったため、泳ぐことすら出来ない。
手で漕ごうとすれば、手まで溶ける。


男は無駄な悲鳴を上げ続ける。
そして、男の目にはロサダ達が映る。



「た・・・・頼む!助けてくれッ・・・!!!!」





男の悲痛な叫び。
ファイナは少し前に歩み寄るが、イオリスに阻止される。

















「・・・・報い、だ」




イオリスのその言葉で全てを悟ったファイナ。
どこか哀しそうな目をした後、後ろへ下がった。








「た・・・・す・・・け・・・」



もはや声さえもろくに出なくなった男は、体の左半分が溶岩に浸かっていた。
既に無表情となった顔の半分が溶けてなくなっている事に気付いた時、ファイナは目を逸らした。








「ァ・・・・・・・・・・ァァ・・・・・」






最期の、断末魔としてはなんとも情けない呻り声を残し、溶岩の表面に出ているのは男の左手だけになった。
そして、その左手さえも、ついに溶岩の中へ沈んでいった。






























ドゴオオオォォォォォンッ!!!!!






いきなりだった。
部屋中に、大音量の爆発音が鳴り響いたのは。




急展開に、全員の頭がパニックになる。
しかし、次の瞬間に全員が同時に理解した。


部屋の天井から火のついたカケラが落下し、あちこちから火が噴出する。
部屋中が揺れに揺れる。



「あの野郎・・・自分が死んだ時の為に保険かけてやがったなぁ・・・!?」とレルク。




おそらく、そんなところだったのであろう。
あの男は、自らの死を想定して、侵入者を確実に道連れにするべく
爆破装置などでも仕掛けたのであろう。
男の体のどこかにそのスイッチがあって、それが破壊されたとき爆発―――おそらくそんな仕掛けだろう。




脱出しないと、確実に死ぬ。
前述の通り、もはやメイスの武器でも破れないほどの分厚い壁が四方を囲んでいた。




「・・・・私たち、役目は果たしたんだよね・・・」



ファイナがぼそりと呟く。
ノックスが「・・・ああ」と返すが、ノックスは死ぬ気はないようだった。






「絶対に・・・ここから出るんだッ!!」

ノックスとロサダ、イオリス達が武器で壁を斬りつけている。
しかし、穴など空きそうにもなかった。


絶望が、全員の心に少しずつ広がっていく。
ここで死ぬのか。あの男の道連れになって・・・





















またしてもいきなりだった。
ババババババババババババババ。
ババババババババババババババ。

うるさいほどに鳴り響く音。


全員が音のした方向を見る。
そして―――皆が目を疑った。





メイスの片腕が、プロペラになっていた。
恐るべき勢いで回転している。




「みんな、僕の足に掴まって」











メイスの言葉のままにする皆。
風が凄い勢いで吹き抜けていく。







「壁は固いけど、天井は脆いはず。
               ・・・・そこを狙うよ」





そう呟いた後。
メイスと、足に掴まっている皆が浮き、天井に向かって急上昇する。










「絶対に生きて帰る」
その言葉が、皆の頭を埋め尽くしていた。


































「烈戦」完