第十六章「突入」

その日は、遂にやってきた。
どんな運命の日も、いつも通りの朝がやって来る。
自分は、今日でその人生に幕を降ろすかもしれない。
そんな考えが、全員にあった。

だけど、不思議だった。


何故か―――皆と一緒にいれば、それも恐怖ではないという思いも、あった。



「みんな、準備はいいね?」
ファイナが、皆に確認する。
ロサダの薙刀は、いつもよりよっぽど鋭く光っていた。おそらく、直前まで研いでいたのであろう。
イオリスは、その肩のアームを振り続け、カッターの素振りもしている。
皆それぞれの戦闘態勢を整え、アルバ・カテル入口前に集結した。



「・・・・健闘を祈ってるよ」
ザドヴァはその一言以外、何も言わなかった。




そして――――皆は、雪原の中を歩き出した。
各々、それぞれの想いを胸に秘めて。

















白銀の雪原の中、ザッ、ザッと足音だけが響く。
そう、足音だけ。
誰も喋らなかった。  一言も。

ファイナでさえも、もはや震えて等いなかった。





「・・・ここ、みたいだね」



雪原の真ん中に、木のボロい小屋があった。
しかし、それは見た目だけだという事はアルバ・カテル本部から既に聞いている。
2階すら無い事を見ると、おそらくマフィアのアジトは地下にあると読むイオリス。



その入口は、予想通り地下へと続いていた。
もう、後戻りは出来ない。
入るしか、無い。





「・・・・・行くぞッ!!!!!!!」



ロサダとイオリスが、迷いの無い足取りで入口に走っていく。
皆も、それに続いて掛けだしていった。









おそらく、マフィアというくらいだから、侵入者対策の装置はあるだろう。
そう考えている内に、イオリスがブザーを鳴る前に素早く破壊していた。

皆、とにかくアジトの深部目指して走っていく。
マフィアのメンバー達と無数のダーカーが行く手を遮るも、ロサダが躊躇無しに斬り捨てていく。
やはりロサダは歴戦の勇士だ。顔に血がかかっても動揺ひとつしない。

イオリスも、殺さない程度でマフィア達に斬撃を与えていく。

皆も、その2人を先頭に突っ走っていく。
疲労もなければ、息切れも感じなかった。





いきなり、フォンスが後ろにいたファイナに銃を向けた。
とっさに避けるファイナ。
その瞬間、フォンスの持っていたレーザー銃の銃口が光る。

蒼い閃光が、ファイナの後ろを真っ直ぐに飛んでいく。
その閃光はそのまま、後ろにいたマフィアの一人の顔に直撃した。
そのマフィアの右手には―――ボーガン。





「・・・油断しないで下さい」
「・・・お、おみそれしましたぁ・・・」

フォンスに感謝しつつ、更に走る。


そして、銀色のドアが見えてきた。
ロサダとイオリスが、同時に雄叫びを上げ、ドアを開けずに蹴り倒す。










その瞬間、ロサダの足下に黄緑色の弾丸が飛んできた。
ギリギリで避けるロサダ。
顔を上げれば、手どころかジャンプしても届かないほどの高さに、弾丸射出装置がある。
次から次へと弾丸を発射してくる。

弾丸の当たった壁が少し溶ける。酸性の毒物入りだと誰もが察知した。



「みんな避けろォッ!!!!」


ロサダ達目掛けて、弾丸が次々と発射される。
避けながら進もうとするも、弾丸が多すぎて前に進めない。

気付けば、ロサダ達は壁の隅に追い詰められていた。
「クソッ・・・!!!」

レルクが歯を食いしばり、射出装置を睨む。
フォンスがレーザー銃で射出装置を撃つも、跳ね返されてしまった。

おそらく、レーザーでは効かないようになっているのだろう。
ならば、効果的なのは―――直接的な、物理的な攻撃。
しかし、その装置は手すら届かぬ位置にある。



ロサダの顔に、汗が一筋流れる。
まだここまでしか来てないのに――終わるのか。









その瞬間、ロサダの上を何者かが飛び去った。


天井、壁にある凹凸を、まるでサルのように飛び移っていく。
それは、蒼い体躯の女戦士―――ファイナだった。



驚くべき素速さで弾丸を避けながら、壁と天井伝いで装置に近付いていく。
その身軽さを見て、皆は内心感動に近いものを感じていた。

そして、装置の数メートル前でジャンプし、装置の上でファイナが剣を構えたまま落下する。
装置が上を向いて、落下してくるファイナに弾丸を撃つも、ファイナは剣ではじき返した。


そして――


「やああああぁぁぁぁっ!!!!」



垂直落下式斬撃を喰らった装置が爆発する。
ファイナはそのまま、受け身を取れないような体勢で落下していく。

ヴェイルがロサダを押し退け、走り出す。
そして、落下してきたファイナを受け止めた。


「・・・よく、やってくれました」

微笑むヴェイルに、ファイナも微笑み返した。





それも束の間、向こうから巨大な丸太が転がってくる。
大きすぎる。逃げ場は無い。

今度はレルクが走り出した。
そのナイフを構え、目を瞑る。


そして、レルクが目を見開いた。
その瞬間。




「スクリュースピニングッ!!」


白き残像が出来る程、白銀のナイフを持ったまま高速回転するレルク。
回転が止むと同時に、丸太がバラバラになって崩れ落ちる。


「さぁ、どんどん行こうぜ!」
レルクが先頭になって走っていく。
皆がそれに続いて走り出した。







とても固そうな、鋼鉄製の大扉。

絶対、この扉の向こうに何かがある。
この扉の厳重さが、それを言わんでも理解させる。


ロサダやイオリスが蹴り破ろうとするも、流石に固すぎる。
試しにファイナも蹴ってみるが、足が痺れただけだった。


そうこうしている内に、轟音と共に扉に大穴が空く。
ロサダとイオリスが驚いて後ろを見ると、メイスの肩からロケットランチャーのようなものが出て、その発射口から煙が出ていた。

「押してダメなら、吹き飛ばします」
メイスがさらりと言った。

その一言に皆が元気付けられ、微笑む。
一つの穴さえ空いてしまえば、あとは穴を広げる事は容易だった。









中に入った瞬間、熱風が吹いてきた。
そこは、四方を溶岩に囲まれた部屋だった。
辺りには火の粉が飛び交っている。



そして、そこに居たのは、一人の男。
顔を歪め、汗が一筋垂らしている。

その周りには、その男を護るようにマフィアのメンバーが武器を構えている。

それだけで、皆が悟った。
その男が、マフィアのボスであると。


「・・・なんだ。こんな生身の数人数くらい・・・」



そう呟いた直後、ロサダとイオリス、それに続いて皆が走り出す。
襲いかかってくるマフィアのメンバー達を、次々と薙ぎ払っていくロサダ。
イオリスも、冷静に相手の武器をむんずと掴んで鳩尾を蹴る。
ファイナは、主に剣を使わずに相手を素早い動きで翻弄しつつ、蹴り倒していく。

他のみんなも、次々と相手を倒していく。




ここまで来れた皆にとって、この人数の相手など、もはや相手ではなかった。
あっというまに全滅してしまった。




ボスと思われる男が、顔に焦りを浮かべている。
もはや、侵入者を阻止する装置もメンバーもいない。





「・・・・年貢の納め時だ、アンタ。
 おとなしく捕まれば、殺したりはしないぜ」

イオリスが優しく、だけど冷たく言い放つ。
その言葉が合図であるかのように、皆が武器を構える。







「・・・・・・・ククク。クククククク・・・・・・」





唐突だった。
急に、ボスが笑い出した。

皆が本能的に「何かやる」と察知し、警戒する。





するとボスは、懐から大きな注射器を取り出して―――自らに注射する。
注射し終わった、と思ったその瞬間、男は二つめの注射器を取り出す。
そして、再び注射する。





ボスが注射器を取り落とし、地面に当たって砕け散る。
唸り声を上げながら、よろめき始めた。


そしてその瞬間、ボスの体が変化し始めた。
みるみる異形の姿へと変身していくボス。

皆はその光景に目を奪われていた。







変身完了。
その姿は、もはや人間ではなかった。
下半身から第二の顔が突出し、そこから4本の足と鞭のような尾が出ている。
片腕からは炎が燃えさかっていた。


ボスは大笑いをした後、大声で叫んだ。









「・・・もはや俺は最強だァ!!!!
  ヒャァァアハハハハハハハハハハ・・・」






「突入」完