朝。
鳥のなく声が木霊している。
そんな朝、ファイナはイオリスに起こされた。
「・・・・お嬢ちゃん、起きなよ・・・」
「・・・んー?・・・もぅ朝なのー・・・?」
そう言い残して再びベッドに倒れ込むファイナに、イオリスが更に口を開く。
「あの黒い・・・ザドヴァって人が、大事な話があるから起きてくれってさ」
「あぅ〜・・・ぅ〜・・・・;」
可愛い唸り声を上げ、ベッドから降りるファイナ。
肩飾りを身に付け、剣を取る。
気付けば、イオリスはもう既に部屋から出て行ってしまっていた。
「みんな、揃ったようだね・・・」
アルバ・カテル特別会議室に、6人が集合している。
まだ眠いのか、ファイナやレルクは欠伸をしつつ目が死んでいた。
ロサダは数分前から来ていたようで、段差に腰掛けながら足をブラブラさせて鼻歌を歌っている。
「みんな、ダーカー・・・って言葉は知ってるよね?」
ザドヴァが、いつになく重い雰囲気の声で話す。
当然、ここにいる全ての者が、「ダーカー」はどんな存在なのかを知っている。
ロサダとレルクはアルバ・カテルのメンバーだから。
イオリスとファイナは、戦った事があるから。
ヴェイルは―――ダーカーそのもの、だから。
そして次の瞬間。
ザドヴァが口にした言葉に、皆が耳を疑った。
「ダーカーを造り出した―――いわば、ここ最近起きている失踪事件の黒幕。
―――――その黒幕の正体が解ったんだよ・・・」
沈黙。
人は、聞いたもの・見たものの内容を理解して初めて行動できる。
何故か、この言葉の内容を理解することだけは、非常に遅く感じられた。
「・・・・詳しく聞かせてくれよ、ザドヴァさんッ!!」
眠気も吹っ飛んだレルクがザドヴァに詰め寄りながら叫ぶ。
「まぁ落ち着いてよレルク君;」と、ザドヴァがレルクを手で押し返す。
「じゃぁ・・・ご要望に応じて話すけど・・・」
その瞬間、ザドヴァの目が不気味なほどに鋭くなる。
その目は、いつもの和やかなおじさんではなかった。
その目は―――歴とした、アルバ・カテルのメンバーという、一人の戦士の目だった。
その場の空気が張り詰める。
「ダーカー。ここ最近多発しているマトラン失踪事件の元凶と思われる怪物だ。
実際に姿を見たのは、喰われたマトラン達と、君たちと、アルバ・カテルのメンバーだけだ。
この前の事件みたいに、小さい奴らが集団で襲ってくる事も時々ある」
ザドヴァが坦々と話し続ける。
皆は何も言わずに、黙って聞いている。
「そして、アルバ・カテルが、その小さいダーカーの死骸を回収して調査してみたんだよ。
そしたら・・・・どうだったと思う?」
「さぁ・・?」
イオリスが肩を少し上げながら返す。
「最初にその事が解った時、アルバ・カテル内では大騒動になったよ。
まさか、と思ったね。そんな事、ありえないと思ってた。だけど、その悪夢は現実となってしまったんだよ」
空気が更に張り詰める。
そして数秒の間をあけて―――ザドヴァが口を開いた。
「そのダーカーの死骸から、とある細胞が発見されたんだ。
その細胞は、ダーカー以外のどんな生物からも見つけられなかった。
・・・それもそのはず、
それは、『明らかに人によって造られた、決して自然には生まれない細胞』だったんだ。
そしてアルバ・カテルは、その細胞をこう名付けた。
―――――“D細胞”ってね」
「・・・・そのD細胞とやらについて・・・・もっと詳しく聞かせてくれないか」
イオリスが、皆の意見を代表して言う。
「・・・D細胞。DはダーカーのD。
ダーカーの体内に含まれる、特殊な人工細胞。
アルバ・カテルの遺伝子研究部隊「ヴィタエ・クシ」は、その細胞をネズミに注入する実験を行った。
・・・・その結果、ネズミの体が変化し、怪物のような姿になってしまった。
そしてその瞬間、誰もが気付いた。―――何者かが、この細胞を利用して生物兵器を造っている、と。」
そこでヴェイルが口を挟む。
「・・・・まさか・・・・その生物兵器・・・・というのは・・・」
「・・・そう。その生物兵器こそが――ダーカーだったんだよ」
その瞬間、ヴェイルが悲鳴を上げ、頭を抱えて床に倒れ込んだ。
うなり声を上げ、震えながら、目を充血させている。
そんなヴェイルを優しく抱くファイナ。
「・・・大丈夫。あなたは化け物なんかじゃない。
あなたは私たちの仲間なんだから。あなたは、私の大切な人なんだから――」
ヴェイルが、目から涙をこぼしていた。
ファイナの腕の中で、声も上げずに涙だけを流していた。
その様子を見て――ザドヴァはヴェイルが何者なのか悟ったような表情をしていた。
「もう、落ち着いたか?」
「はい、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
イオリスの問いに、本当に申し訳なさそうに返すヴェイル。
「さて、気を取り直して、
今度は君たちに頼みたい事があるんだ」
皆が、耳をすませる。
さぁ、何を頼もうというんだ?と。
「君たちに、臨時のアルバ・カテルのメンバーとして、ある役目を果たして貰いたい」
「え!? アルバ・カテルのメンバーに?」
ファイナが、半分不安で半分期待の目でザドヴァを見つめている。
「いいぜ。何事も経験だからな♪」
あっさりと承知するイオリス。
ファイナはあの反応から多分OKだろう。
ヴェイルは、「・・・是非とも」との答え。
「で?その役目ってのは?」とロサダ。
「うん。それなんだけどね。
アルバ・カテルは、D細胞を使って事件を引き起こしている、とあるマフィアのアジトを突き止めた。
君達には、そのマフィアのアジトに突入して、マフィアを壊滅させてほしいんだ」
「それは無理だな。
実質的に、そのマフィアのアジトはダーカーの巣だ。
当然マフィアのメンバーの他にも、ダーカーがごろごろしているだろう。
俺達5人だけじゃ、まず捕まってシチューにでもされちまうだろうな」
イオリスが、少し皮肉めいた口調で話す。
「そういうだろうと思って――いわゆるお供っぽい人たちを同行させてもらう事にしてたんだよ♪
入ってきてちょーだいな♪」
ザドヴァの声に反応するかのように、
3人がドアを開けて入ってきた。
「あ、フォンス!」とレルク。
「また会いましたね、レルク」と、軽く挨拶を返すフォンス。
「紹介するね。
向かって左、一番背の高い黒い人は、「黒将」のアミクス。
真ん中は・・・もうみんな知ってると思うけど、「湾剣」のフォンス。
そして向かって右、大きな剣を持ってる人は、「鉄神」のノックス。
この3人は、戦闘技術・能力に特化したプロフェッショナルで、正直言ってかなり強いんだよ♪」
「ちょっと待った!
アルバ・カテルのメンバーってコードネームが貰えるんでしょ?
私たちには無いのかな?」とファイナ。
「そうだなぁ・・・・
「水龍」のファイナ。
「音霊」のイオリス。
「雷帝」のヴェイル―――っていうのはどうかな?」
ファイナは格好いいとわめき、
イオリスは「悪くない」という意見。
ヴェイルは何も言わなかったが、否定してないという事にされた。
「・・・?」
ファイナが、ロサダが神でも見たような顔をしているのに気付いた。
そしてロサダが呟く。
「・・・・し・・・師匠!」
え。
誰だよ、ロサダの師匠って。
「おう、久しぶりだな、ロサダ。元気にしてたか?」
そう返したのは―――大きな剣を持つ・・・ノックスとかいう男。
目の前にいるノックスという男が、ロサダの師匠。
皆、その事実に対して驚かなかった。
ロサダも人間、神なんかじゃない。師匠がいてもおかしくなかったから。
だけど、あのロサダの師匠というくらいだから、もの凄く強いらしい事だけは理解できた。
しかし、アミクスがさっきから何も喋らない。無口なのだろうか。
ファイナはそんな事を考えていた。
そこでザドヴァが更に話す。
「そして・・・もう一人。お供を用意させてもらったよ。 みんな、こっち来てくれるかな」
ザドヴァが部屋から出て行く。
皆がその後を追った。
そこは、氷と霜に覆われた部屋。
とても寒い。
地上にあった雪原より更に寒い。
「しゃむぅい〜・・・はゎゎゎ・・・・」
ファイナが震えている。
しかし、歩いていく内、壁にあったソレを見つけた瞬間、その寒ささえも吹っ飛んだ。
・・・・何かのカプセルだろうか。
蒼いガラスの向こうに、誰かが居る。ピクリとも動かない。
ザドヴァが、その横にあったボタンを押す。
プシュウ、と音を立てた後、更にガチャリという音を立てて、蒼いガラスのようなものが下に収納されていく。
そして、これが最後のロックなのか、カプセルらしきものの上下か移動して入れ替わり、その瞬間ガチャリという音がした。
そして。
誰かが、壁の氷に埋め込まれていた。
そして、その「誰か」の目が黄緑に光り、動き出した。
その瞬間、ファイナは彼が人間ではない事に気付いた。
動く時、あからさまに関節から機械音がする。
その目すら、明らかな水晶だった。
「彼」は壁にあった大薙刀をむしり取り、床に降り立った。
「・・・・何の用なの?ザドヴァさん」
「彼」が言葉を発する事ができたのにも驚いたが、その動作が人間らしい事にも驚くファイナ。
「よっ、メイス。よく眠れたか?」
「もう飽きるほど眠ったよ。・・・どうせ今回の役目が終わった後も眠らなきゃならないんでしょ?」
「・・・・うん。ごめんね」
「いいよ。ザドヴァさんが謝るような事じゃない。僕の事なんだから。むしろ・・・ありがとうザドヴァさん・・・」
「・・・・さ、今から君をみんなに紹介するからさ」
「・・・わかった」
この男――そもそも人間なのか――の名前はメイスというらしい。
そのメイスが、皆の前に立ち、お辞儀をする。機械音は変わらない。
「紹介するね。
この人はアルバ・カテル軍・特別上級兵、「鎧炎」のメイスっていうんだ」
アルバ・カテル軍・特別上級兵。
ロサダも所属している役職。
つまり――この人も、歴戦の戦士。
「・・・みなさん、はじめまして。僕はメイスと言います」
メイスが、再びお辞儀をした。
それからザドヴァは、メイスに今回の役目を話した。
おそらく10分もかからなかったであろう。
話し終わり、メイスがみんなの集まっているところへ来る。
「・・・・今回の件、宜しくお願いしますね」
「おう!よろしくな坊や」
イオリスが、メイスの肩をポンと叩く。
皆が微笑った。
人間じゃないから仲間じゃないなんてことは無い。それはみんなも同じだった。
「みんな、このメンバーで異議は無いようだね♪」
ザドヴァの問いに、皆が笑顔で返す。
そして悟った。この表情は「YES」の返答であると。
そして―――、ザドヴァが口調を変え、大声で叫んだ。
「『水龍』のファイナ!
『疾風』のレルク!
『黒将』のアミクス!
『音霊』のイオリス!
『雷帝』のヴェイル!
『鉄神』のノックス!
『湾剣』のフォンス!
『鎧炎』のメイス!
そして―――
『死神』のロサダ!!
以上九人を、マフィア撃滅隊として任命する!!!!
十日後、マフィアのアジトに突撃せよ!!!」
「集結」完