第十五章

「・・・・・・すごい・・・・・」
イオリスが思わず声を漏らす。


そこは、壁・床・天井が全て機械的な白銀色に輝いている空間だった。

床には、明るく光るライトのような発行物。
壁には、歩兵携帯用のロケットランチャーがびっしりと掛けられ、
その横の壁には接近戦用の武器が掛けられている。


「・・・初めて見るな・・・これがアルバ・カテルの・・・」

イオリスが、物珍しそうに壁や武器を眺める。
ファイナやヴェイルも、まるで異世界にでも来たかのような目で周りを見渡している。

レルクとロサダは別に驚きもせず、見飽きたとでも言うような顔でぶらぶらしている。
どちらもアルバ・カテルの関係者なのだから当たり前だと言えば当たり前なのだが。






「あ、来ましたか。お待ちしてましたよ」


声の方向に振り向くと、白いトーア。
レルクが「おう、フォンス」と軽く挨拶をする。

「すまねぇなフォンス、こいつらにアルバ・カテルの本部を見せたらびっくりするかなと思ってな」
「いえいえ・・」

ロサダの言葉に笑って返すフォンス。



「どうも」
イオリスがフォンスに会釈をする。
それに対してフォンスも会釈を返す。


















そして、それに続くかのように、もう一人が向こうの戸から姿を表す。
その姿は―――なんとも言葉に表しにくいが、とりあえず<威圧感>があった。
思わず後ずさるファイナ。



「・・・・・あ、ロサダ君!この人達は貴方のお友達なのかい?」



・・・・・・。

ファイナは、その喋り方と外見とのギャップに引いた。
こんなに威圧感がプンプンしてるのに、ノリが軽すぎる。


そんなファイナの思いをよそに、ロサダが返答する。




「おう!俺の自慢の友達(ダチ)だ!
 もしかしたらお前とも友達になってくれるかもな、ザドヴァ!」
ロサダが笑いながら言う。

「それは、是非ともお友達になってみたいなぁ♪」
と返す――ザドヴァという男。


すぐさまイオリスが言う。
「ロサダと知り合いのようだな・・・ま、ザドヴァさん、これから仲良くやっていきましょうぜ」

ニコリと優しい、頼りがいのありそうな笑顔を見せてザドヴァは返した。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね!」と返した。
その笑みを見て、ファイナも安心したように「よろしくね、おじさま!」と言う。
「おじさまは勘弁してほしぃなぁ〜; でも、よろしくね、お嬢ちゃん」と返す。



まるで威厳と愛情に満ちあふれた、子供が誰しも求める理想の父親のような感じの男だった。
ファイナが「お父さんって呼んで良いですか?」と聞いている。

ロサダ達は「え?」という顔をしていた。





そこでファイナは初めて告白した。

自分が、親の顔を知らないという事。物心付いた時には既に親戚に引き取られていた事。







ザドヴァが、「・・・それは遠慮して頂きたいです」と真顔で返す。
ファイナがキョトンとした顔をしている。

「顔を知らずとも、あなたにはお父さんがいる。あなたのお父さんは今頃、あなたの父である事を誇っていると思います。
 だから、そんなお父さんを差し置いて私を呼ぶのは、あまりやってほしくないです」


優しくも、重みのある声で説得されたファイナは「・・・わかりました」と頷く。
その瞬間、ザドヴァの大きい掌がファイナの頭を撫でた。
顔をあげるファイナに、ザドヴァは一言言った。







「・・・・・慕ってくれるのは、とても嬉しいですよ♪」







何故だろう。
涙が溢れてくる。


「ほら、泣かない!」
ザドヴァに涙をぬぐわれる。
しかし、涙の量は増す一方だった。



場所は変わって、アルバ・カテルのとある部屋。
そこは、よくある普通の部屋とあまり変わらなかった。
それでも、ふかふかのベッドとクリスタルの灯りがあるだけ、下手な旅館よりはよっぽど凄かったが。



「今日はここで寝るんだ〜・・・」と感嘆の声を漏らすファイナ。
「綺麗な部屋ですね」と無表情のまま言葉を発するヴェイル。







まぁ、なんだ。
フォンスやザドヴァに、「アルバ・カテルには宿泊用の部屋もいくつかある、疲れを少しでも癒してくれ」みたいな事を言われたのである。
広い風呂もあるという事を聞いて、ファイナが飛び上がるほど喜んだのもあったが。


「んじゃ、俺は眠いから先に寝るな」
そう言い終わる前に、
ベッドにもぐりこむイオリス。

ロサダはと言うと、愛用の薙刀の手入れをしている。
レルクは本を読んでいる。












ま、タダで高級旅館に泊まれたという事にして、
ファイナは大浴場へと足を運んでいった。











「父親」完