第十一話「無数」

「・・・・・何だって!?」
少し勢いのある、老婆の声が聞こえる。


「化け物のようなヤツらが集団でバトル・ゲームの会場に・・・・」
聞いた事と同じ内容を繰り返して呟く老婆。
そしてハッと気付いたように叫ぶ。


「じ・・・じゃあ、マトラン達はどうしたんだい!?」
「何人か、ヤツらに喰われちまいましたが・・・・・・・その・・・・・」

老婆の右腕と思われる中年のマトランが、そこで口を重くする。

「“その”・・・・何だい!早く言いな!」



老婆に叱咤され、やっと口を開くマトラン。
その言葉は―――











「観光客と思われる3人のトーア、
   及び長身で黄色い別の怪物が共闘して怪物と応戦しています・・・」



おそらく、遠くからその様子を見てしまったであろうマトランがその言葉を口にした直後、
老婆は鎧を装着し、部屋の隅に立て掛けてあった槍を鷲掴みにし、
アルバ・カテルに連絡した後、アンタも武器持って会場へ来い!」の一言を残して、部屋のドアを蹴り開けて出て行った。





「ソニックレボリューションッ!!!!!!!」




武器を地面に突き立てずに、そのまま直接属性の力をぶつけるイオリス。
そしてその勢いのまま、前に居た数匹の怪物を貫通するようにして薙ぎ倒していく


「いくら潰してもキリが無いよ!」
ファイナが怪物の攻撃を必死にその剣で受け止めながら叫ぶ。
すぐさまロサダが、ファイナを追い詰めていた怪物を八つ裂きにする。


その時、ファイナが気付いた。
マトラン達が、離れた場所からファイナ達が戦っている姿をじっと見つめていた。

「逃げてッ!早くッ!!」

ファイナの叫びに、ハッと我に返ったマトラン達は、
一目散に駆けだしていく。
そして、それと同時に怪物達が目の色を変えて戦闘をやめ、一斉にマトラン達の方向へ向かっていく。





「させませんッ!」

黄色い怪物――の姿をした青年――とロサダが、怪物達の進行方向に立ちはだかり、次々と来る怪物達を斬り捨てていく。
「クソッ・・・・流石に数がッ・・・!」
ロサダが薙刀を振り回し、怪物を薙ぎ捨てながら呟く。
「マトラン達はまだ逃げ切れていませんッ!少しでも時間を稼ぐんです!」
エコーのかかった声で、青年がロサダに向かって叫ぶ。




「きゃああぁぁっ!!」

「!?」



ファイナが仰向けに倒れ、右腕を押さえながら顔を苦痛に歪めている。
右腕からは血が溢れ出ていた。


「お嬢ちゃんッ!!」
イオリスが駆けてこようとするも、怪物達が多すぎて前に進む事もままならない。

出血し続けたまま、ファイナの息がどんどん荒くなっていく。
格好の獲物を見つけた怪物達が、すかさずそこへ群がるように飛び掛かってくる。


ファイナは、本能的に目を固く瞑った。
そして、次の瞬間に体中の肉が引き千切られる痛みを覚悟した。











・・・・?




何故だ。
痛みが来ない。

ゆっくりと目を開けるファイナ。
そこには―――2人の男。







しかも、白い方の男の武器が―――光っている。

ファイナは即座に悟った。この男はスピリットであると。

「間に合ったな、
フォンス
レルク、ギリギリです。今度はもうちょっと早く来ましょうね」

フォンスという名らしい白い男は、ファイナの方に振り向くと、ファイナに言った。
「もう大丈夫です。皆さん、よくここまで持ちこたえられましたね」

「あの・・・・貴方は・・・?」
ファイナが聞き返す。

「その話は後だ。今はこっちを片付ける方が先決だろ!?」
緑の男――おそらくはレルクという名だろう――がぶっきらぼうに言う。



とりあえず敵では無い事に安心するファイナ。
しかし、息は続かず、右腕も激痛が走ったまま。

「もう戦闘は不可能でしょう、私はこの娘(こ)を安全な場所に避難させます。その間、よろしくお願いしますね」
「おう!任せとけ!」

緑の男が、実に頼りがい有りげに言う。
白い男は、ファイナを抱きかかえると、常人とは思えぬほどのジャンプで群から上に高く離れ、
そして群から外れたところに着地すると、北の方向に向かって走っていった。





「クソッ!数が多すぎるぞ!キリが無ェッ!!」

ロサダが薙刀を振り回し、半分ヤケになりながら叫ぶ。
青年も、そろそろ手が痺れてきたのだろう。顔がゆがみ、武器を持つ手は震えていた。


「・・・・マトラン達は逃げる事は出来ても、私達は・・・ここまで、ですかね・・・」


怪物を薙ぎながら、青年が呟く。
ロサダも、顔が曇っていた。おそらくの覚悟を決めているのだろう。

「ここで・・・・死ぬのか・・・・・・・・・・・・悪くないな。
      人々を助けるために犠牲になった男・・・・・・最期としては中々格好良いな」


ロサダは、寂しそうな笑顔を見せて、より一層薙刀を強く振り回す。
青年も、震える手に力を込め、大鎌を振るい続けた――――――――――


























「残念、最期はまだだぜ?」





ぶっきらぼうな声が聞こえた。
青年とロサダが、ハッと我に返る。




ロサダは――――その声に、聞き覚えがあった。


この声は――











考えるより先に、口が言葉を発していた。



「・・・・・久しぶりだな」




緑の男が、ロサダの横で武器のナイフを構えながら、返答した。









「おう、久しぶりだな、ロサダ。
     
・・・・・3年ぶりくらい、かな?」






「無数」完