第十話「襲来」

決着は、着いた。
空に飛び上がり、次の瞬間に地面に突き立ったのは―――――大鎌



「・・・・・・勝負あり、だな。」
しばしの沈黙の跡、ロサダが一言呟く。
それは言われなくても、誰もが理解できた。
武器を弾かれた当の本人は、何が起こったか理解できないような表情をしていた。
そして、次の瞬間、少し微笑って――――――呟いた。





「・・・・・・お見事です」





その瞬間、観客達がワァァァァと歓声をあげる。
「かっけぇぞ兄ちゃぁぁん!」「すごかったぞお二人さぁぁん!!」と大勢の歓声を浴びながら、
二人は体勢を立て直し、戻っていった。



「おーい、生きてるかー?」

間抜けな声を掛けられ、イオリスがベッドから降りる。
気絶したイオリスは、休憩室208号室のベッドに寝かせられていた。
まさかいきなりやられるなんて思ってもいなかったらしい。少し落ち込み気味のイオリス。
しかし本心ではそれほど気にもしていないのはファイナでも分かった。


「ま、あっちが俺より強かっただけ。何も不思議じゃないよ。」
イオリスはあっけらかんとその言葉を口にしたあと、少し笑った。



「・・・ファイナ、そう落ち込むな」

ファイナが下を向いている。
ロサダ自身、何が原因かは解っていた。

「・・・・悪かったな、ファイナ。まさかお前もその気だったとは思わなかったんだ・・・すまん!許してくれ!」
土下座して謝るロサダ。化け物でも見たように驚くファイナ。

「・・・ううん、いいの!大丈夫だから!」
明るく返したファイナを、少し不憫そうに見上げるロサダ。



その時だった。
イオリスが、いつの間にか窓の外から聞こえるマトラン達の声が、悲鳴に変わっている事に気付いたのは。




イオリスが、窓の外を見る。
そして――――動かなくなった。
まるで、これまた化け物でも見たような顔をして、固まっている。

「・・・・どうしたの?イオリスさん。」
ファイナが横をヒョイと横に向ける。
そしてファイナも固まる。

そしてロサダも窓を見た。
その瞬間、ロサダが薙刀をむしり撮り、走り出した。
続いてイオリスもカッターを掴み、ベッドから飛び降りる。
そしてファイナも剣を持ったまま、ドアから飛び出しっていった。

階段を駆け下り、急ぐ。早く。早く――――















今大会用に建てられた簡易休憩所の2階の窓から見えた景色。
それは――――惨劇。


無数の小さい、マトランと大して変わらない大きさぐらいの一つ目の怪物達がそこら中のマトランを襲っていた。

ある者はその怪物達に追い回され。
ある者はその怪物達に捕まり、必死でもがいて。
ある者はその怪物達に群がられ、悲鳴を上げながら喰い殺されていた。





簡易休憩所の出入口のドアを手で開けもせずに蹴り飛ばすイオリス。
続いてファイナ、ロサダが出て来、そして武器を構える。



「・・・・あ・・・・・!?」

イオリスがキョトンとした顔で声を漏らす。
ロサダとファイナも、己の目を疑っていた。特にファイナは。








本当に目を疑いたくもなるような光景だった。
さっきの怪物の群を、今度は黄色い長身の怪物が薙ぎ払っている。
「・・・・・・・・・・・」
誰も言葉を口にしない。
3人の考えてる事は同じだから。




―――――さっきの、青年?―――――





いやまさか。そんな筈は無い。
彼はトーアだ。化け物なんかじゃない。
そんな――




その時だった。
黄色い怪物の後ろに、群をなしていた化け物の一匹が飛び掛かってきた。
そして、もしそれが命中すれば、黄色い怪物が致命傷を負うのも、ファイナには一瞬で解った。
















もう、同じ過ちは繰り返さない・・・・!







体が勝手に動いていた。

頭で考えるより先に、勝手に。

















飛び掛かってきた怪物をブッタ斬り、黄色い怪物の側に寄りそう。



「・・・・・あなた・・・・だよね・・・?」


問いかけてみた。答えが返ってくる事を期待せずに。
























答えが返ってきた。
エコーのかかった声だけど、聞き覚えのある、あの人の声。










「ありがとうございます、ファイナさん」






ファイナとロサダも駆け寄る。


「死なないように頑張ってくれよ?」
銀色のトーアが、肩からアームをゆっくりと伸ばしながら呟いた。


「大丈夫です。私、結構強いですよ?」







もう何も言葉は要らなかった。
コイツが、あの青年だったから。









4人は、その武器を構え――――そして、その得物を振りかざし、怪物の群に突っ込んで行った。










「襲来」完