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リゾートの話

 何度でも読みたくなる本や観たくなる映画があるように、何度でも出かけて、いつまでもいたくなる場所ってあるものです。わたしにとって、田沢湖がそんな場所でした。むかしから水のあるところが好きで、小学校まだ低学年のころ、田沢湖は格好の遊び場だったのです。
 そういえば、人間は命をもらってから9ヶ月のあいだ、母親の胎内で羊水に浮かんですごすので、本能的に水を好むといわれます。水族館が人気を集めたり、雨音を聞いていると心がなごむ、なんていう人がいるのも、あんがいそのへんからきているのかもしれません。
 話がそれましたが、そのころ住んでいた部落から田沢湖畔まで6〜7キロの道のりでしたが、兄貴のあとにくっついてあたりまえのように歩いて出かけたものです。つくと、すでに家からはいてさた水泳パンツひとつになって水遊びをしたり、浜を走りまわって一日すごしました。帰り道、疲れた体をズルズルひきずって歩いていると、どこかのおじさんのトラックが止まつてくれて、荷台に乗っかってもどってきたことも覚えています。
 そんな子どものころからの思い入れもあってか、学生時代から10数年間の岩手暮らしのころも、田沢湖にはよく出かけました。春の新緑のころのデート、仲間と毎年きた夏のキャンプ、紅葉の湖畔を通って抱返りでなべっこ、湖を見下ろすゲレンデでスキー。子どもが生まれてからは、もっぱらホテルの芝生で缶ビール片手に寝っ転がり、ジェットスキーのたてる波や本を眺めて一日過ごしました。
 週休二日制や長期休暇が定着しはじめて、リゾートへの関心が高まっていますが、こんなふうに何度も足を運びたくなる場所をもつ人は、どのぐらいいるのでしょうか。「リゾート(RESORT)」の“RE-”は「ふたたび」「くり返して」の意で、“RESORT”全体は「通う」「しばしば行く」ことを意味しています。いわゆる団体旅行などにみられる周遊型の旅行ではなく、一カ所滞在型のすごし方をすることで、「4人家族がひとり1泊1万円程度で1週問滞在
(国土庁が示すリゾートライフのモデル像)」できるような旅行地、ということでしょう。
 一時期“見ろやまわれや”の旅行をしていたわたし自身も、このごろこうしたタイプの旅行を好むようになったのは、決して(断じて)トシのせいばかりではなく、休暇の目的はリフレッシュだと感じるようになったからです。
 どんな仕事にもストレスは付き物。たいへんで忙しいのは当たり前。それなのに、休日観光地巡りでほとんど車を運転しっぱなしの状態では、リフレッシュどころかかえって疲れてしまいます。休暇のときは仕事を引きずらないで、気持ちを切り替えられる空間に身をおくことがストレスの解消になり、次の仕事のやる気につながるわけですから、リゾートの果たす役割は大きいといえます。
 こんなリゾートライフの実現のためには、一時の大規模開発を見直し、キャンプ場のような気軽に楽しめる環境の充実するなどハードな面の促進がもちろん大切ですし、それと同時に、まとまった休暇がとれる職場のシステムを考案していくこと、また、わたしたち自身の、仕事と休暇に対する意識の改革も、合わせて必要なことでしょう。
 さてわたしはといえば、田沢湖が好きで、ついには一生ここに滞在してしまおうと決めて4ヶ月。仕事と休暇の境い目がない、考えてみればもっとも貧困なリゾートライフに苦笑しています。

◇  ◇  ◇

 『リゾート』は、そのスタイルを論じるものではなく、自分白身に合った環境を見つけ出すことが大事。人によつては家庭生活のストレスが、仕事でリフレッシュされる…なんて人までいらつしゃるのだから。

佐々木達哉
1960年生まれ。
今年8月から田沢湖畔に住み着く
喫茶&ペンション・オーナー

1993年12月17日 週刊アキタ「秋田論壇」から 

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