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■ 辰子の化身
むがしむがし、院内(インナイ)の村さ、子どものねえ夫婦がおったんだど。夫婦は近くの大蔵観音(オオクラカンノン)さ毎日願をかけだば、ある日ひとりの元気な女の子を授がったもんだ。辰年生まれのその子は辰子(タツコ)と名付けられ、夫婦によって大切に育てられだんだど。それから十数年、年頃になった辰子は、村でも評判のめんこい娘に成長したど。とごろが辰子は、年老いでいぐ大人だぢを見で、自分もこんたふうになるんだべが…ど思ったば、いでもたってもいらえねぐなって、密かに大蔵観音さ百日の願をかげだんだど。雨の日も風の日も、毎日観音様さかよって、ついに満願の夜、疲れて倒れでしまった辰子の夢まくらさ、神様が現れで、
「どうしてもというならばこの北の泉の水を呑めば…」
ど告げだもんだど。こうして辰子は院内の峠を越えで泉を見つけ、この水を呑んだために、不老不死の龍の姿さ変わっていったんだどさ。辰子は自分の姿に驚いだども、これが自分の運命と悟って、この泉を大きな湖にしてよ、この泉を日本一美しぐ、そして平和な湖にするべど誓って主になったんだなあ。これが今の田沢湖だ。
■ 木の尻鱒
急にいねぐなった辰子を探しにきた母親さ、最後の別れを告げで、湖とそこで暮らす人たちの永遠の繁栄を約束した辰子は、この大きな湖深ぐ沈んで行ったっけど。母親は悲しみのあまり、手さ持ってらった木の尻(キノシリ 松明にした薪の燃えさし)をこの湖さ向がって投げつげだっけ、その木の尻はたくさんの真っ黒い魚になって、辰子のあどを追うよんたに深ぐ深ぐ泳いでいったんだど。この魚はな、木の尻鱒(キノシリマス)ど呼ばれで、長い間この美しい湖の周辺で大事にされできたったんだなあ。
■ 双龍(ソウリュウ 二人の龍神)の出会い
それがら長い年月がたったある冬の日、北から渡ってきたかもの群れが、八郎湖(八郎潟)の八郎太郎(ハチロウタロウ)の話しっこを辰子さ聞がへだっけど。辰子は自分と同じぐ人間がら龍になった太郎のごどを知って、何としても会ってみでくなって、かもにその気持ちを託したんだなあ。したらば次の年の冬、太郎は八郎湖を厚い氷で閉ざして、かもといっしょにこの田沢湖さやってきたもんだ。二人はすぐにうちとけて、春まで仲良く暮らしたっけど。太郎はまだ冬になったら必ず来るごどを約束して帰ったんだな。それがら太郎は、毎年冬になれば必ず田沢湖さ来て辰子と過ごすようになったために、二人の熱い愛で田沢湖はなんぼ寒い冬でも凍らねし、それどごろが二人の愛情のように年々深ぐなって、ますます立派で美しい湖になったんだなあ。
■ 愛の湖
あるどきもう一つの湖、十和田湖の主、青龍南祖の坊(セイリュウナンソノボウ)は、こんただふたりの仲のよさをねだんでしまったんだなあ。八郎太郎を田沢湖がらなんとが追い出して辰子をこっちさなびがせるべど思って、大嵐を巻ぎ起ごして太郎さ襲いかがったのよ。なんとこの時だば八幡平から大石岳、院内岳まで空はわさわさどどよめいで、南祖の坊ど太郎はありったげの力ど秘術を尽ぐして戦ったんだど。そして南祖の坊は持ってだ鉄の錫杖(シャクジョウ)を千本の針さ変えで太郎の体さ吹ぎ込んだっけ、さすがの太郎も血だらけになって
苦しんだのよ。んだどもこのどぎだ、愛する辰子がぼーぼーど燃えさがる千本の木の尻火を投げつげで太郎を助げだもんだ。南祖の坊は大やげどして十和田湖さ逃げ帰って、それがらはもう二度と田沢湖さ姿を現さねで、ちゃんと自分の湖を守るようになったっけどさ。
田沢湖はすっかり平和を取り戻して、今では辰子と太郎の深い愛情にあやがって「愛の湖」「出合いの湖」「縁結の湖」ど言われるようになったんだなあ。
(三湖物語から)
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