
三重県から的場りんさんが民舞の稽古に来てくれた。
  彼女は以前に一度稽古に来てくれていた。
  その頃彼女はある太鼓グループに所属して活躍しておられたのだが、大学時代から親しんでいた民舞にも離れがたい愛着を感じてインターネットを検索して私のホームページを探し当ててくれたのである。
  その時に記した私の「民舞ノート」から改めて思い起こすために記録として書き出してみた。
  時は2004年12月のことでした。
  今から5年前になります。
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  18日に来秋。
  その夜から始まった「津軽じょんから節」の稽古が本日を持って一先ず終わりました。
  わざわざ名古屋から来られたのは愛知県を中心に活動している和太鼓グル-プGONNA(ガナ)」のただ一人の女性メンバーである的場さん。(GONNAに興味のある方は私のリンク集からどうぞ)
  以前学生民文研でわらび座に来たことがあるという彼女からメールを頂いたのはかなり前であった。
  民舞を勉強したいという彼女の熱意ある希望を聞いて私はとても嬉しかった。
  私が民舞で培ってきた心や手法を真正面から受け止めてもらえる手ごたえを感じたからだ。
  それに違わぬ充実した稽古三昧の5日間だった。(これは本来彼女の側が言うべきものであるが私にとってもである)
  日頃太鼓で鍛えた体力で果敢に挑戦しつづける彼女のバイタリティーはたいしたものだった。
  朝から夕方までびっしりとまずは踊りの手順とかたちを次々と提示する。
  そして体にまだ入りきらないままに動きの細部をあたり直し、確認していく。
  何度もその往復作業を続ける。
  その都度少しずつではあるが確実に一歩ずつ前進していく。
  マンツーマンの稽古が終わり、宿として紹介して泊まっていただいた農家民宿に帰っても「ずっと踊りつづけている・・・」とは民宿で受け入れてくださったお母さんの弁。
  その成果もあって、遂に今日最後の日にはテンポの速い音楽に追いついて踊りつづけることができるようになった。
  何度も頭の中が真っ白になる瞬間を経ながら、時間をかけて確認作業を続けるという忍耐の要るそのくり返し。
  そして翌日には一段アップした踊りに確実に変化しているという、夜の自習での努力を想像させるに難くないその努力。
  それこそが良い踊りを踊ることができる人の一番大切な資質。
  そういう情熱を感じて私も充実したのである。
  ある意味で私も燃焼しきって、今快い疲れを感じながらこのノートを記している。
  今年の最後の大仕事をやり遂げた気分である。
  彼女が秋田入りしてからの2,3日は冬とは思えぬ暖かさであった。
  さぞかし寒かろうと防寒の準備を怠りなくしてきた彼女、その暖かさに期待はずれの面持ち。
  ところが昨日あたりから遂に冬将軍が襲ってきてあたり一面雪、雪、雪の白一色。
  彼女が大喜びしたのは言うまでもない。
  仲間に雪景色の写真を撮って帰れると早朝から張り切っていたようだ。
  今日は稽古が終わって帰りの電車の時間までの間、角館町の武家屋敷を案内。
  雪の吹き付ける黒塀の町並みをそぞろ歩いてもらった。
  今ごろはきっと名古屋に到着して秋田のことを思い出していることでしょう。 
  彼女との新しい出会いに感謝し、今後の精進を祈りながら、楽しみを将来に繋いで新しい年を迎える気持ちへ向かっていくことにしましょう。 
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以上がその時の記録です。
  いま読み返しても彼女の人となりがわかる充実した稽古でした。
  今回も同様に熱い4日間となりました。
  残念ながら前回稽古した「津軽じょんから節」は5年の歳月の間に彼女の事情もあって稽古が継続できずに体から離れておりました。
  がしかし今回はあえてそれから離れて新曲に挑戦です。
  曲目は「秋田おばこ」
  彼女の強い願いからです。
  一日目はまず一番の踊りから。
  秋田の手踊りですから綺麗な踊りの手使いが必要です。
  手の返し、その返しに向かう流麗な流れ。
  それを支える下半身。
  特に足拍子。
  そうしたものの組み合わせに最初は戸惑いながら何度も何度も繰り返し繰り返し訓練を重ねる。
  同時に体の芯を何時もまっすぐに立てて踊る。
  これが出来ないと無駄なエネルギーを浪費してしまうことになるのです。
  収まり所に収まらず動きから動きへも無駄が多くなり美しい動きとして見えてこないのです。
  こうしたことを何時間も何時間もじっくりと積み上げて少しずつ理想の形に近づいてゆく。
  それに伴って踊る人の心もすっきりと見え始めてくる。
  一番から二番へと順次進みながら一日目、二日目とあせらず時間がゆっくりと過ぎてゆく。
  三日目になりおばこの稽古がとりあえず一段落した。
   
  
 
   
 
  引き続いて「越中おわら節」の稽古へ。
  彼女は恐る恐る聞いてくる。
  「おわら節やってもいいですか?」
  難しい踊りだから、と躊躇があったようだ。
  けれどやりたい時が覚え時。
  さっそく流し踊りの稽古。
  この踊りはおばこよりも更に体の芯のみで踊ることが要求される。
  動きはいたってシンプルだが。
  それだけにごまかしが利かない。
  音楽に乗り足運びだけを何度も何度もくり返す。
  そして手。
  体の乗せ方。
  向き。
  一つ一つを確認しながらこれも繰り返し繰り返し踊り続ける。
  時折「秋田おぼこ」の復習も交えながら三日目から四日目が「越中おわら節」で過ぎてゆく。
  こうして5年目に訪れた再スタートレッスンが無事に終わったのです。
   
  
 
   
 
  彼女の今後の奮闘が期待できる良い時を過ごせた4日間でした。