訓練その4 西馬音内盆踊りとじゃんがら

9月に入って帰省から小澤さんが戻ってきました。
丁度その時期角館は3日間続くお祭りです。
その祭りには各町内の山車が出て、それぞれの山車では飾山囃子のお囃子が演奏され秋田手踊りが踊られます。
こうしたものを見るチャンスにはめったに遭遇しないので彼女を案内しました。
町外れのスーパーに駐車して暗い夜道を歩いて町の中心部へ向かいます。
駅通りを直線で向かうと祭りの喧騒、お囃子の音が少しずつ近づいてきます。
行き交う人も増えて雪洞の火が多くなり、弥が上にも祭りの興奮に引き込まれていきます。
知っている人がお囃子で乗っている山車を探して街中を移動。
運良くその山車はどちらも中心部を運行中で間もなく見つけることが出来ました。
明日は早朝から仕事を開始のアルバイト先のパン工房の黒田が太鼓を叩く山車を探し当て、最初の頃一緒にアルバイトをしていた藤さんが笛を吹く山車(わらび座連)もそこからすぐの角を曲がった所に見つけました。
やっとお目当ての山車を見つけ出しほっと一安心の小澤さん。
しばらく囃子に聞きほれ、手踊りに見ほれていました。
その後それこそ中心部に設置されてある仮設の舞台で繰り広げられる秋田民謡、手踊りを見学。
中に「秋田おばこ」が踊られました。
どんな秋田おばこが見られるか固唾を呑んで見守ると、 それは丁度小澤さんに教えた神代おばこと言われる踊りの手を踊る組で小澤さんも私もびっくり。
踊る子は中学生くらいの子達。
「とても手が綺麗。でもやはり目がしっかり決まらないと踊りが映えないんだね。言われてきたことが判ります」
人の振り見て我が振り直せ・・・私も予定していなかった大きな成果だったようです。
しばらくそこで秋田民謡と手踊りを堪能しおりましたがあまり遅くなると明日の仕事始めに(何しろ早朝5時開始なので)差し障るので途中で見るのを打ち切り家路へ。
これは彼女が秋田に滞在中の最も貴重な芸能体験となりました。
(本当は西馬音内盆踊りも案内したかったのですがこれは帰省中の為出来ませんでした残念)
そして踊りの訓練は西馬音内盆踊りへと進みました。

西馬音内盆踊り

あまりにも有名なこの盆踊り、出来るなら踊りを覚え現地の盆踊りで一緒に踊る、という体験をして欲しかったのですが残念ながらそれは出来ませんでした。
しかし当初から西馬音内盆踊りは訓練の曲目に目論んでいましたのでいよいよその機が熟したというところ。
それまでの踊りの訓練の成果もあって覚えることは比較的すんなりと行ったように思えます。
それでもやはり最初の頃、この踊りの特徴でもある手の反りや足運びにはしばらく手間取りました。
手首をぐっと上に持ち上げそこを支点にして手の甲は極力下方に(その部分だけをみるとキュッとした山型になるような)再び指先を反らせる。
それを意識しないとボテッとした何の変哲も無い手になってしまうのです。
しばらくの間、彼女が踊っている最中私は絶えず「手・・・」と注意を促し続けました。
それからステップ。
優美な踊りというイメージですからややもするとシャナリシャナリと踊りそうなかんじですが、実は結構しっかり拍子にあわせてトントンと運んでゆかなければなりません。
身体はやや斜に構えて前進していきます。
そうした身体使いが優美でいて尚且つ大地にしっかりと根ざした生命力を感じさせる踊りとなるのです。
彼女は初めてこの曲で浴衣を着て稽古をしました。


秋田に踊りの訓練に行くということで新島の方から頂いたものだそうです。
その大変貴重な浴衣が汗でびしょびしょになります。
あまりにも見るに忍びないぬれ方なので何回かで浴衣をつけて踊ることはやめましたが、着物を着ないと判らない袖の扱いとか裾捌きがあるわけです。
それもマスターして何時もの曲のように彼女用に考えた舞台用の構成稽古をして最後の詰めをいたしました。
そうそう彼女が里帰りしている間に私が彼女の為に用意した西馬音内盆踊り用の着物をプレゼントいたしました。
もちろん現地のように本物ではありません。
絞りの衣装を一式そろえるには10万円ほどの予算がかかりますからそれには絶対に手が出ません。
そこでカナダから訓練に来た安原さんの時と同じようにオークションでそれらしい雰囲気を感じさせる浴衣を落札し、それを西馬音内盆踊り用に袖口などを手直ししたものです。
が、中々良い雰囲気の踊り衣装となったのではないかと思います。
それでいよいよ西馬音内用の着付けの稽古もし訓練も一応終わりとしました。
(もちろん踊りは次のじゃんがらに進んでも毎日踊ってはいたのですが)

じゃんがら

トントンと西馬音内盆踊りが進んだのでさて次は太鼓の踊り、じゃんがらへ。
さすがにこれは得意の分野。
太鼓。
特殊な太鼓の扱いなのですがそれでも割合スムーズに物にしていったのではないでしょうか。
腰に太鼓を結わえた紐を乗せただけで身体の前に下げた小さめの太鼓を、撥先に馬の尻尾をつけ兎の毛で装飾されたバチでリズムを刻むのです。
刻みつつ最大の音量からぐっと秘めた最小の音までが波のように繰り返えされます。
全身を使い切らなければ気持ちのこもった音は出せません。
そうしたこともさんさ踊りやじょんからなどの経験を踏まえてその違いを理解する感度が増していたのでしょう、私がそれを理解してもらうためにアアでもないコウでもないと言葉を選びながら指摘する回数もぐっと減ってきていたように思います。
やはり積み重ねというのは大切なものなのですね。


彼女にとって大切な一曲になるだろう・・・という期待を抱かせてくれた頃をもってじゃんがらの訓練は終了したのです。
さて訓練もいよいよ終盤へ。
次回は七頭舞です。