訓練その3 さんさ踊り

これまでの3曲の訓練を経て大分なじんできた踊る身体。
そこで津軽じょんから節の途中からさんさ踊りに訓練は入った。
彼女が覚えるのは「三本柳さんさ踊り」
楽譜を渡し稽古の手順として最初は太鼓のリズム訓練から。
始めて叩く横打ちのスタイルに最初は慣れないようだったが、それでも太鼓はお手のもの。
そこで早速太鼓のリズムを覚えながら手踊りに。
まず口唱歌で3拍子の踊りに挑戦。
さんさ踊りの独特の口唱歌に最初は戸惑う。
手は胸より下には下ろさずに上方に向かって両手を縦に上下させるのが特徴。
下半身は腰を落として足は外股にしない。
新たな踊りのスタイルだが数日もせぬうちに特徴をつかみ始めた彼女は3拍子から4拍子5拍子7拍子、田植え踊りくずし、獅子踊りくずし、引きは、礼踊り、歩み太鼓と順調に手踊りを覚えて行った。
ところが思わぬことに太鼓の稽古で少し足取りが鈍った。
最初にも書いたが太鼓を前にして(まだ胸に着けてはいない)それぞれの拍子のリズム訓練をしていると横打ちのバチ使いが太鼓の皮の真ん中を打っていないのである。
ちょっと斜めから打ち下ろす感じで横に向いている太鼓の芯を外すのです。
リズムは問題なく覚えています。
結局この打ち方に一番てこずったでしょうか?
それでもリズムは問題ないので太鼓の踊り方にはいりました。
太鼓を胸に着けると更に皮が身体に密着して、床に置いて叩いていた状態と腕との距離感が変わって来ます。
どうしたらその問題をクリアできるか・・・。
かつてカナダからおいでの安原さんの時の経験があったので一番良いのは客観的に自分の叩いている状態を確かめること、とビデオカメラでチェック。
そうすると一目瞭然。
その点では本物の努力家。
無駄の無いバチ運びで縁打ちと太鼓の中心を鮮やかに往復しながら打ち込めるようになってきました。
太鼓の踊りも3拍子〜礼踊りと進んでいたのですが太鼓の打ち方が変わってくると踊り方にも芯が出てくるのですね。
太鼓に負けない強い足腰でしっかりとステップを踏み踊りにメリハリがつきはじめたのです。
この頃には彼女が特注で取り寄せた自分専用のさんさ用太鼓が届き、さらに稽古に熱が入ってきました。
そこで構成稽古に入ることにしました。
構成稽古では太鼓が叩けるだけではなく内容的な問題が中心になってきます。
舞台の上で無駄の無い動きで最大のエネルギーを発揮するために必要なことは何か。
精神の集中とその集中をどのように外に表していくか?
新しい発見を積み重ねながら少しずつ表現に近づいて行きます。
それを見ているのが嬉しい時期を私も体験させてもらいました。
暑い時期が到来しており汗だくでさんさ踊りをマスターしてゆく彼女。
午前中はパン工房でアルバイトをし、自転車を漕いでくる彼女の身体は鍛えられ心なしか身体もしまって来た様に思えました。

さてここまで手踊り、太鼓踊りと頑張ってきた彼女。
次は笛に挑戦・・・ということに。
彼女は笛はちょっと苦手だったようです。
今までその苦手意識であまり稽古をしてなかったようでまず音を出すことから。
私も笛はあまり上手くないのですが、多少熱心にアアでもないコウでもないと工夫を重ねてきて自分の知っていることを伝えてきました。
音を出すために必死で息を吹き込む。
吹き込めば吹き込むほど力が入って息が漏れ、音がかすれてくる。
息が苦しくなる。
そんな悪循環がしばらく続きながらも諦めない。
踊りながら笛を吹くとますます安定しない。
けれどそれにも負けず努力を重ねていると何時か光が見えてくるものですね。
踊りながら吹けるようになりたい・・・という彼女の思いはゆっくり時間をかけながら徐々に現実のものになってきました。
当初からみると本当に良く音が出るようになってきました。
時には私よりずっと上手いのです。


彼女がこの調子でもっと本格的に笛のプロについて訓練を重ねたら結構なところまで行くんじゃないか?
そんな思いも湧いてくるほど。
せっかく始めた笛の訓練だからさんさ踊りだけで終わらせるのは勿体無いと思い、それから簡単な唱歌や民謡なども稽古の中に取り入れるようになりました。
「赤とんぼ」「竹田の子守唄」「朧月夜」「ほたる」「荒城の月」「さくら」「花笠音頭」「どんぱん節」などなど。
その稽古が進んだおかげでまずは実践、ということで「ほたる」の二重奏は二人のパフォーマンスの大事なレパートリーとなって何度も演奏いたしました。
(けっして上手かったわけではありませんが)
やがて更に曲数が増えて「西馬音内盆踊り」の「音頭」や「雁化」「ねぶた囃子」にも挑戦。
そうして彼女の夏前の訓練は一段落を迎えお盆で新島に帰省していきました。