小児科通信 平成13年3月号

卒業の季節ですね。学校を卒業する子供たちは一つ成長した気持ちになるのでしょうね。大人になるとあんまり卒業する事がなくなりますが、少しづつでも成長したいですね。今月中には、雪溶けるかなぁ。まだかなぁ。(文責:小児科 渡部泰弘)

がまん、してますか?

「うちの子、薬飲めないんです」と外来でお母さんから言われる事が時々あって、そんな時僕は「いいよ、飲めなくて具合悪ければ入院すればいいから。でも、それじゃ大変でしょ?」と言います。                      「こうすれば薬を飲める」という方法は、残念ながらありません。また、病気によっては絶対飲まなきゃいけない薬(飲まなければ命に関わる、あるいは大きな後遺症が残る)もあります。子供が薬を嫌がるなんて当たり前。だから薬を飲めない子には叱ってでもなだめすかしてでも、飲ませなきゃいけないんです。そこで考えるのは「薬飲めないんです」の意味。実は「この子は薬を飲むのが嫌で、私も飲ませる努力をするのが嫌なので、もっと簡単に飲める薬下さい」という意味じゃない? もしそうだったら「お母さん、そりゃ、がまんが足りなくないかな?」と思います。                  現代の裕福な日本に住んでいる私たちは(僕を含めて)楽な事を求めてきました。歩くのが嫌なら車がある、リモコンでチャンネルが変えられる、どこでも携帯電話がかけられる、夜中でもコンビニで買い物できる・・・              でも、逆にがまんが出来なくなってます。好きなものしか食べない、予防接種で大暴れする、自分の思うとおりに行かないと怒る・・・「ムカつく」「キレる」子たちも、がまんが出来ない子なんだろうなと思います。                 残念ながら世の中にはがまんしなきゃいけない事だらけで、がまんできないその子自身が困るのです。機械相手ならいいけれど、人間相手はがまんが必要です。お父さんお母さんも外ではがまんしてるでしょ? 会社の上司の事、近所付き合いの事、仕事相手との事、そして夫婦の間でも。                                        子供は放って置いたら絶対がまんなんかしません。日頃からがまんを体験させなければ、がまんの出来る子には育ちません。で、そのためにどうしても必要なのが「がまん出来ない子につきあうがまん強さ」なんですね。「ご飯やだ、ジュース」という子にジュースあげるのは簡単。「だめ、がんばって食べなさい」とつき合うのは大変。嫌がるし、テーブル引っかき回すし、泣くし、そのうちご飯は冷めるし片づけなきゃいけない時間だし・・・だからと言って、子供に手をあげるのも簡単。でもそれでは「恐いから痛いから言う事を聞く(理屈でなく力でしか言う事を聞かない)」子になってしまいます。大変なのは分かるんだけど、子供につき合うお父さんお母さんがちょっとがんばって「がまん」をして下さいね。なぁんて、子供のいない僕が言うのは簡単なんですけどね。ずるいかなぁ?

「薬だけ下さい」

僕は診察もせず話も聞かずにに薬だけ出す事があります。ただし、それは「定期処方」といわれる薬(つまり、毎日定期的に使う薬で、一回に2週間分とか1カ月分とか処方期間が決まっているもの)だけです。これも1カ月毎などの定期的な診察に通ってもらう事を前提としています。一方、いわゆる風邪など急性疾患(一時期悪くなっても一定期間で治る病気)の場合は「一度診察を受けて薬をもらって良くなってきたけれど、同じ症状がまだ続く」というような事がよくありますね。そういう場合は、僕は必ずしも子供本人が診察を受けなくとも、一度であれば家族の方からお話を聞いて同じくすり(あるいは別の必要な薬)を出しています。でも「まだ調子悪かったらこの次は診察ね」と声をかけます。          なぜかと言うと、子供の急性疾患は変化が大きいのです。家族の方から見て同じような症状でも、僕ら医者の立場から見て薬を変えた方がいい場合がありますし、診察しないと分からない事があります(風邪だと思っても溶連菌感染症だったりね)。なので、僕は診察無しで薬だけ出すことはいい事ではないし、ある意味では無責任だと思っています。だから窓口で「風邪なんですけど薬だけ下さい」とか「(定期処方じゃない)先月と同じ薬下さい」という希望に対しては申し訳ありませんが受け付けません。最低限どういう状態かお話をしていただいて「治らなかったら次は診察ね」という事をお話しして薬を出しています。だって、僕らは出した薬に責任ありますし、診察して考えて薬出してますから。言葉が悪いのを承知で言うと「薬だけ欲しいなら、そんなの売ってる薬飲ませればいいじゃん!」と思います。まぁ忙しくて病院に来れない、というのも分かりますが、具合が悪くなったら何にもなりませんから。                                受付のお姉さんが「診察無しでお薬だけは出せませんので、先生に状態お話しして下さい」と言う事があったら、それはイジワルで言っているのではありませんので、どうかご了解を。