小児科通信 平成13年4月号

ようやく待ちに待った春です。子ども達は新入学・進級と新しい生活が始まる季節ですね。まだ朝晩寒いこともあります。気温差には十分気を付けて。(文責・渡部泰弘)

「入院しないで何とかなりませんか」

外来で薬を出して治るうちはいいのですが、中には飲み薬で治らず、熱が続いて食欲もなく、外来で点滴してみてもグッタリなままの子がいます。この子は入院の方がいいな、でも入院すると家族は大変だろな、確か下にまだ小さい赤ちゃんもいたな、ご両親共働きだったっけ、などといろいろ思いを巡らします。                           小児科では「絶対に入院が必要な場合」と「絶対に入院しなくてもいい場合」の間、つまり「入院の方がいいかもな、でも外来でなんとかなるかもしれない」という部分がかなり広いのが現実です。そんな時、僕は家族の方にも「どうしましょうか」と聞くことにしています。家族の方が家で見るのは心配という場合は、多少症状が軽くても入院した方がお互いのためにいいです。同じ程度の具合の悪さでも、元々病気を持っている子はその分心配をして考えます。問題になるのは、僕が「入院した方がよさそう」と思っても家族の方に「事情があって入院は・・」と言われた時です。

外来で出来る点滴

水分が摂れず脱水がある場合、あるいは何か薬(吐き気止めや喘息の薬)を使う場合に点滴をする事があります。小さい子は200mlボトル1時間、大きい子は500mlボトル2時間という事が多いです。実は点滴には「具合が良くなる」「栄養になる」など一般的に大きな誤解があります。外来で一本だけの点滴は一時的な脱水の改善にはなりますが、内容は水・塩分・糖分だけですから決して十分な栄養にはなりません(カロリーは500mlボトルでせいぜい食パン1枚程度)。だから簡単に言ってしまうと、200ml何か飲めるのなら、わざわざ押さえつけて痛い事をして1時間かけて200ml点滴しなくてもいいのです。小さい子の場合、僕は点滴の針を抜かずに固定したまま帰して翌日もう一度受診してもらう事をしています。これは必ずしも小児科のお医者さんがみんなやっている事ではありませんが、こうすると翌日はまだ点滴が必要でも、もう一度針を刺さずに点滴が出来ます。でもこれは本来病院で行うはずの医療行為の管理を家庭に持ち越す事になるので、大きな危険性はありませんが翌日までの一日だけにしています。だから翌日は「入院しますか? 点滴抜いて帰りますか?」と聞かなければなりません。

入院すれば出来る事

点滴の水分量は、外来では小さい子で200ml1本に対し、入院の場合は24時間の持続で1000ml程度(10kgの子に40ml/時間で)入るので、脱水の改善には明らかに入院の方が有利です。また抗生剤を使う必要がある場合、外来で出す飲み薬の抗生剤は一度お腹で吸収してから効くのに対し、点滴から注射で入れる抗生剤は直接血管内に入りますから効果はより高いです(外来では基本的には注射の抗生剤は使わないことにしています)。咳に対する吸入も一日3回出来ます。何より体にとっていいのは(意外に気付かれない事ですが)ゆっくり体を休められるという事。家に帰ると子供は遊びます。兄弟がいたりすると、それこそ休んでなんかいません。病棟で点滴をしていると付き添いの家族の方もずっと見ていますし、これはもう、休んでいるしかありません。そうするとやっぱり回復は早いですね。                     時々「毎日でも通いますから、入院しないで外来で点滴できませんか」と聞かれることがありますが、上に書いたような理由から、そこまでするよりだったら入院した方が楽です。連日外来に通うと他の風邪ひきをもらいかねませんし、病院の行き帰りで体が休まりません。それにそこまで一人の子に外来で治療を行うのは、他の子が点滴をする場所と時間(つまり他の子が治療を受ける機会)を奪う事になりませんか?

余談ながら、抗生剤の事

抗生剤(抗生物質)も大きな誤解を受けている薬です。「先生、抗生剤下さい」と言われる事が時々ありますが、「抗生剤は風邪ひきの万能薬」と思っているお母さん、いらっしゃいませんか?                         抗生剤とは「細菌を殺す薬」ですが、実は外来に来る子供たちの大半(統計により7-9割)はウイルスが原因なのです。ウイルスに対してはどんなに強い抗生剤を使っても全く意味がありません。「ウイルスを殺す薬」は特殊なもの以外は無く、普通の風邪ひきは症状に対しての薬で治るまで待つしかないのです。また、抗生剤はたくさん使うほど細菌がそれに抵抗力をつけてだんだん効かなくなってしまいます。それに元々病気を持たない元気な子ならば免疫がしっかりしているので、細菌感染でも抗生剤無しで回復も可能です(実際、出した抗生剤が検査で出た菌に効かない事が後で分かっても、しっかり治っている子もいます)。なので、僕は(他の小児科のお医者さんと比べても)抗生剤をあまりたくさん出しません。抗生剤を使うかどうかを判断するのは、あくまでお医者さんの仕事と考えています。                     入院するかどうかの判断は、上に書いたとおり難しいものです。その時々に応じて、相談しながら決めていきましょう。ただし「絶対に入院が必要な場合」はきちんとそうお話ししますから、その時はどうか入院してください。

待っている間はお菓子を食べさせないで(家族の方にお願い)

診察の時には口の中も見ます。のどの検査をする事もあります。なので子供に食べたり飲んだりさせないようにして下さい(赤ちゃんのミルクは別ですが)。我慢している子も、誰かがお菓子を食べているのを見ると食べたくなるものです。何度も吐いている子は食べるとまた吐いてしまいます。また、中の待合室に入ったら間もなく呼ばれますから、おなかを出せるようにボタンをはずす、ベルトをゆるめるなどの準備もお願いします。